第7話:ゴーストリアの三因子01
「行ってくる」
久方ぶりの登校。両親の言った、
「車に気をつけて」
は割と洒落になっていない。
「で、結局お前は俺に憑くと」
「ワン!」
一子が頷いた。両親にも一子は見えていないため、退院してからも零那の傍には一子がいた。どんな理屈で一子が幽霊になったのかは分からないが、
「脳の検査は受けたんだよな」
とは零那の言葉だ。
幻覚の類なら筋は通るが、それにしては意識に曇りはなく晴れ渡っている。色々と幽霊については調べてもみたが、納得できるだけの論拠は見出せない。
「何か思い遺したことがあるのか?」
「零那ちゃんとのセックスだよ!」
「即座に成仏しろ」
覚えた頭痛は形而上だ。
後刻学院に登校するにつれ学院生の割合が増える。高等部の領域に入ると視線が刺さった。気にする零那でもなかったが。疎んじられるのは既知。衆人環視の視線の意味も過不足なく受け取っている。
「要するにワンコが死んで俺が生き残ったのが不愉快なんだろうな」
百点満点。
教室に着くと、
「やっほ!」
「…………」
「おはようございます」
友人が迎えてくれた。後刻学院の数少ない零那の味方。高等部の四天王だ。
「どうも」
頷いて零那は自身の席に着く。教卓の真ん前だ。別に目は悪くないが、四天王と近しい席を意図的に作るとなれば相応の妥協は図られる。
「本当に大丈夫なん?」
金髪のボンキュッボンが尋ねてくる。
「実はそうでもない」
零那はおどけたように言った。
実際にその通りだ。
肉体そのものは健全だが、先立って認識の不都合は認めざるを得ない。
「それよりビッチ」
「ビッチじゃないし!」
「ありがとな」
「え……? 何が?」
「私立病院。お前が手を回してくれたってな」
赤夏二葉。
校則ガン無視の金色ヘアーだが、実は『石火』と呼ばれる財閥の令嬢だ。後刻学院のスポンサーでもあるため、ある意味で障り神に相当する。
事故の件を聞いて私立の総合病院の個室を宛がったのが二葉だとは聞いている。
「あっしら友達だし。気にしなくていいってば」
空笑いの二葉だった。
『ちなみに何が大丈夫じゃないの?』
ラインで三代が尋ねてくる。本人は視線を合わせることもなく読書に励んでいるが、並行してスマホを弄るくらいは平然とやってのける。
「まぁ色々とな」
『その色々を小生は聞きたいのだけれど』
「南無三」
アルビノの白い髪をクシャクシャと撫でる。
「…………」
素直に受け入れる三代だった。
「ビブリオは良い奴だ」
『恐縮です』
やはりラインでの返事。
「その……」
とこれは四季。
「お悔やみ申し上げます」
四天王の良心。黒髪の美少女だ。
「何が?」
零那は素で問う。四季はソレに怯んだらしい。
「その……何とも?」
「何が?」
「一子さんのこと……」
「あー」
チラと視線をやる。その先には一子。
「ワン!」
吠える一子だった。
「ありがとな」
「何がでしょう?」
「委員長が心を砕いてくれることにだ」
「いえ……その……立場は対等ですので」
「ワンコの葬式には出たのか?」
「ええ」
「さいか」
どうしたものか?
それが零那のテーゼだ。
「私でも喪失感は拭えません。恋人ともなればその心情を察するに余りあります」
「難儀だな委員長は」
くっくと笑う。
「あんまりワンコが死んだ実感がないから気にするな」
滑らかな黒の長髪を撫でる。
「実感……ですか?」
「ま、色々とな」
一子が幽霊として傍に居る。それをどう説明したモノか。
「やっぱり二葉ちゃんたちでも私は見えないんだよ?」
「見えていたらそれなりに大事だろ」
一子の妄言に突っ込むと、
「何が?」
と二葉が首を傾げた。
「色々とワンコに思うところがあってな」
「平気?」
「心は健やかだ」
そこは間違いなかった。
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