第3話:それは触れぬ障り者02


「そんなわけで」


 と零那。


「俺といると虐められますので」


 痛めつけられた五体を確認しながら起き上がる。ミシリと殴打の痕が悲鳴を上げる。さすがに集団暴力を受ければガタも来る。


「…………っ」


 ふらついて倒れようとすると、


「はわ」


 女子が支えてくれた。


「人の話を聞いていたのか」


 言葉にはトゲがあった。


「ええと……ええと……」


 はわわと狼狽えて、


「えと……一人で虐められるより二人で虐められた方が少しはマシだよ?」


 そんなあんまりな事を述べられた。


「…………」


 瞠目。女子の正気を疑ったが、茶の瞳は憂いを帯びている。


「ハラから心配しているらしい」


 それが一時的な物であれ、中々珍しい精神に見えた。


「とりあえずは保健棟だね」


 女子は零那を支えて保健棟の部屋の一つに誘導した。傷の手当てと包帯の巻き方。


「応急処置だから、この後ちゃんとした病院に行ってね?」


「どうも」


 それで終わるはずだった。少なくとも零那の意識では。けれども女子の興味と関心は失せなかった。


「えと……」


 モジモジとする女子。


「あなたのお名前は?」


「ああ」


 そう言えば、と零那。


「十三永零那だ。お手前は?」


「青春一子……だよ」


「お世話になりました。青春さん」


「一子って呼んで?」


 無垢な瞳で問いかける。


「じゃあ俺も零那でいいぞ。ワンコ」


「零那ちゃんね……ワンコ?」


「犬に懐かれた気分だからワンコ。一は英語でワンだろ?」


「その発想はなかったよ」


 恥じらうように微笑む一子は魅力的だった。殊更口にはしないが。


「零那ちゃんは……友達とかいる……?」


「いないな」


「恋人は?」


「年齢イコール」


「じゃあさ!」


 ズイと零那の顔に一子は顔を近づけた。


「私のグループに入れば良いよ!」


「ワンコのグループ?」


「うん!」


 零那には途方もないことだ。


「私の名案だよ」


 一子の方は自画自賛らしい。


「私の友達紹介するんだよ」


「あーっと……」


 どう答えたものか?


 それが零那の本音だ。人間不信はあまりに根深い。


「お前まで虐められるぞ?」


「一人で虐められるより二人で虐められる方が少しはマシだよ」


 先の言は案外本気だったらしい。


「友達になってくれるのか?」


 他に意訳のしようもないが、さながら暗い場所に引っ込んでいて、久方ぶりに外に出て太陽光の暖かさを思い出す。そんな心境。


 友達。


 ただそれだけの事が途方もない観念に思える。


「じゃあ約束しようよ」


「約束?」


「何があっても私は君の傍を離れない」


 そんな宣言。そうして零那と一子は知り合った。

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