必然の聖地 ある時代のありし日の日帰り旅行記

和泉茉樹

必然の聖地

 これはコロナ禍によって今はできない、あるいは二度と再現できない旅行記になります。


     ◆


 朝、八時前。Y県H市N駅(*1)で普通電車に乗る。大抵は閑散としているし、僕がこの日帰り旅行を行うのは土曜日で、基本的に学生で溢れることもない。土曜日なのは、旅行の翌日が平日だと落ち着かないことによる。ついでに週末だけのお得な切符があった(*2)。

 もしかしたら都会の人は田舎の鉄道沿線の光景に、何かしらの夢を見るかもしれないけど、N駅から乗り換える高尾駅まで、はっきり言って何もない。人家は見えるが、目新しいものは何もないに等しい。この辺りでは滅多にトラブルは起きない(*3)。

 高尾で乗り換え、快速か何かに乗って新宿を目指す。高尾と新宿間を進むうちに僕の心も切り替わって、都会に来たな、としみじみと感じる。ここまでくると乗客も華やぐ。しかし外を見ていたいのに立って乗車している人の壁で外など見えなくなる(*4)のが悔しい。

 新宿で下車して、中央線から総武線のホームへ移動。ここまでくると普段は見ない大勢の人がいて、心が高揚する。ついでに新宿駅でスマートにホームから移動できるのは何か、できる人間のような気分で心地いい。東京は電車の本数が多い(*5)ので、時間に追われなくて助かる。

 総武線で東へ走り、秋葉原で下車。ここから旅行が本当に始まる。

 秋葉原では電気街口の方へ出て、モモーイ時計(*6)を眺める。そこから向かいのラジオ会館(*7)へ行く。ここは僕としては昔から非常に利便性が高い店(*8)です。まずK-BOOKSへ行くのですが、この店は古い建物の時から入っていたけど、新しい建物の工事中は別のところ(*9)で営業していて、僕は多用しています。新しい建物の店は頻繁に商品配置が変わる(*10)ので、欲しいものを探すのが大変。

 ともかくここで値段を見てから、一つ上の階のTRIOという店へ行ってアイドルグッズを見たりして、今度こそ離脱。表へ出て、ゲーマーズの前を抜けて、大通りを折れる。高架下の横断歩道を渡り、そこからSEGAか何かの横の道を抜け、また角を曲がる。するといかにも秋葉原らしい裏道となる。この道には昔、らしんばんの小さな店舗があったが、もしかしたらメロンブックスだっただろうか(*11)。今はそこには用はなくなり、道を進む。道にメイドがいる(*12)のがここでも見受けられる。この道をまっすぐ進むと、第二の目的地に着く。

 突き当たりのT字の角にある新しいビルの二階が、らしんばんの大きな店舗で、ひとつのフロアでありとあらゆるオタクカルチャーのメディアが並んでいる。ここでK-BOOKSと値段をすり合わせて何を買うか、それを決めます。

 このK-BOOKSとらしんばんの二つを当たれば、大抵の欲しいものは手に入る。特に声優さんのCDはおおよそ中古で手に入る。僕はここで目的の第一をおおよそ解消。最近ではこの一つ上の階にあるアイドルグッズを扱うTRIOという店も覗きます。安いTシャツ(*13)がいっぱいあって、これがなかなかバカにならない。ちなみに今、僕が一番行きたいお店です。

 荷物を抱えて今度は大通りへ出て、駅の方へ戻るものの、万世橋の近くまで行き、道を折れて、ブックオフ(*14)へ行きます。このブックオフが意外に品揃えがいい。普通の邦楽のCDを中古で買える場所としては有力。小説などの品揃えも充実しています。

 荷物を増やして、次はヨドバシカメラへ。ヨドバシカメラに理由があるわけではなく、上の階にある有隣堂(*15)が目当てです。ここで適当に欲しい本を買う。文庫本を買って紙のカバーを選ぶのが楽しい。

 さて、いよいよ大荷物で秋葉原駅から両国へ移動。これが今回の本来の目的です。

 僕は大相撲観戦は新型コロナの影響で見合わせているので、ここから書くのは、コロナ禍以前の話。

 まず両国駅を出たら、近くにあるファミリーマートでお茶を買います。国技館の中にも自販機や売店はありますが、法外と言っていい値段(*16)なので、外から持ち込むのが吉。国技館まで移動し、中へ。仮にここで金属探知機や手荷物検査があると天覧相撲だとわかる(*17)。

 国技館の中に入ってやることは、まずは力士弁当(*18)を手に入れる。これにはいくつかのテクニック(*19)があり、目当てのものを探すという可能性もある。地下の大広間でちゃんこ鍋を一杯三〇〇円ほどで食べることもできるので、これは弁当の後にでも食べに行く(*20)。

 相撲を真剣に見始めるのは十四時近い時間でも、意外にここが面白い。番付で言えば幕下あたりだけれど、いい相撲を取る若いの(*21)がいて、楽しくなる。観客席もこの頃はまだ穏やか。これが十両あたりになると、徐々に客もヒートアップしてきて(*22)、コロナ禍以前は非常に活気があった。

 土俵が無事に進行し、十八時前には打ち止めになる(*23)。外へ出ようにも、なかなか出られないのだけど、のろのろと先へ進む。国技館の外は人でぎっしりで、それが両国駅まで続く。ホームに上がると、秋葉原方面行きはすごい混雑で、乗り込むのが難しい。

 それでもなんとか電車に乗り、御茶ノ水で乗り換え、新宿までくる。ここで最後の用事を済ませる。

 済ませるのだが、今ではだいぶ、目的も減ってしまった(*24)。駅からまっすぐに紀伊國屋書店新宿本店へ行き、本を物色する。ここはいつ行っても受け止めてくれるような、変な度量の深さを感じさせる。なぜか空気が違う気さえする。ここではサイン本を探す(*25)のも楽しい。

 時間はそろそろ残り少ない。というわけで弁当を買う必要がある。以前は新宿駅のホームにある弁当屋で買っていた。これは失敗であるのは、「孤独のグルメ」でも触れられている(*26)通りである。僕も以前は新宿駅のホームで買っていて、買うたびに、次は何を買うべきか、と思案したりしたが、これは贅沢の極みである(*27)というよりない。ともかく、弁当を買うために、紀伊國屋書店新宿本店の地下へ降りる。例のスパゲティの店(*28)がある場所のことです。通路を少し進むと、とんかつ屋がある。とんかつ和幸という店で、ここで弁当(*29)が売っている。これが異常に安い。六〇〇円もあれば十分に買える。

 弁当を手に入れたら地下道へ入り、そこから新宿駅へ向かう。ここはいつも不安になるが、迷うことはない。ちゃんと表札がある。斜面を上がり、進んでいくと改札のそばに出るのだけれど、僕はここでベルクという飲み屋で売っているマグカップを確認している。しかしここは行き来する人の波を抜けるのがどうしても難しい(*30)のが玉に瑕。ベルクも面白そうなお店だけど、僕は入ったことがない。酒を飲む習慣がないので、ハードルが高いけれど、客はみんな楽しそうだ。店員にも活気があり(*31)心打たれたりした。しかしもう僕はおおよそマグカップは手に入れている。

 そこからは改札方面に進みながら、売店に寄って飲み物を買う。そうしてから今度こそ改札へ行き、スムーズにホームへ上がる。この旅行では帰りは特急に乗るので、二十時発の特急あずさを利用します。十九時五十分くらいに清掃などが終わり、ドアが開く。

 今でこそ特急あずさは全席が指定席で、僕も指定席でしか利用しなかったものの、前に一度、指定席ではなく自由席を利用して(*32)すごい思い出が生まれたりもした。ともかく、指定席なので、座れるし、今では自販機で座席が指定できるので、隣が空席の場所を選べるのがありがたい。ただ、思わぬこともある(*33)のが旅ではある。ここでとんかつ弁当を食べることになるが、やはり飯が熱いのがありがたいと、この時に感動する。

 特急なので大抵は問題なく(*34)甲府まで戻れる(*35)。甲府で各駅停車に乗り換えて最寄のN駅へ着くと、すでに二十二時半過ぎになる。こうしてついに僕の日帰り旅行も終わる。


     ◆


 こうして帰宅して風呂に入り、手に入れたCDをパソコンに取り込み、そしてiPhoneに移して日付が変わる頃に就寝、となるのが、僕の日帰り東京旅行、相撲観戦旅行の全行程となります。

 今の世の中では、大相撲観戦の様相も様変わりしてしまっただろうし、東京の光景も全く変わったんだろうなぁ、と思うと、悲しいような、寂しいような気持ちになりますね。



(了)


注釈


*1「N駅」:ここには二〇二一年の十二月、アイドルグループの乃木坂46がベストアルバムの販促に関係するだろうキャンペーンの一環で、三名が来訪してポスターを残していった。そのポスターは駅ではなく、駅の前の観光案内所を兼ねた野菜の直売所に貼られている。駅が無人駅であるため盗難を警戒したと思われる。

*2「お得な切符」:正式名称を失念したが、週末フリー切符というような名前で、往復の切符でかなり割安。昔は特急券と乗車券のセットで、特急券の関係で利用できる便が限定されていたのが、いつの間にか時間は自由になり、その後は往復の乗車券だけになった。

*3「滅多にトラブルは起きない」:一度、信号機の故障で高尾に着く前に電車が止まって緊張した。結局、高尾にどうにかたどり着き、京王線での代替輸送で新宿へ出た。

*4「外など見えなくなる」:僕は中野駅の辺りで、どこに中野ブロードウェイがあるのか、と外を見るのだが、いつもどこにあるのかわからない。中野サンプラザも見てみたいが、果たして列車から見えるのだろうか。

*5「東京は電車の本数が多い」:僕の生活圏では、電車は三十分に一本、もしくは一時間に一本。電車通勤という概念もないと思われる。車社会です。

*6「モモーイ時計」:秋葉原の駅舎が新しくなる前からあるという時計。ポールの先に時計が付いている、素朴な時計で、十五年ほど前か、桃井はるこさん(*6−1)がラジオ(*6−2)で触れたことで僕は知った。いつの間にか「モモーイ時計」というのが公称になったらしい。

*6−1「桃井はるこ」:エッセイスト、声優、シンガーソングライター、ラジオパーソナリティなど、多彩な肩書きを持つタレント。僕はUNDER17(*6−1−1)というユニットでこの人を知った。

*6−1−1「UNDER17」:二人組の音楽ユニット。二〇〇五年頃に解散したので、僕はリアルタイムにかろうじて間に合った。僕は「マウス Chu マウス」が好きだけど、CDを揃えたら「SHE・KNOW・BE 〜恋の秘密〜」に感動した思い出が強い。

*6−2「ラジオ」:二〇一〇年頃、桃井はるこさんは文化放送の地上波、土曜日の二十八時台に番組を持っていた。「桃井はるこの超!モモーイ」、「桃井はるこのはいはい、ラジオラジオ」を僕は聞いていた。

*7「ラジオ会館」:世界のラジオ会館、のこと。秋葉原駅前に古くからあり、大きな字の看板がすぐに目に入る。老朽化で二〇一〇年あたりに改築された。あの時は古い建物の大文字の看板が消えてしまうのか、と悲しくなったが、新しい建物でも少し違うものの、同じような看板が出来上がったので、一安心した。

*8「利便性が高い店」:僕がここに初めて足踏み入れた時は、ラジオ会館はまだ古い建物だった。なんとなく中に入り、何も知らずに利用したK-BOOKSで、様々なCDや本を買った。買ったもので思い出深いのは「シュタインズ・ゲート」(*8−1)のノベライズを上下巻のセットで、ここで買ったと鮮明に覚えている。逆に見逃したものではロリータ℃(*8−2)のアルバムを棚に見出したが、手持ちの資金が少なく、泣く泣く買わなかった。もちろん、次に行った時にはなかった。

*8−1「シュタインズ・ゲート」:大ヒットしたPCゲーム。SFブームの一角だったと思われる。テレビアニメ化されて僕は知った。内容はすごかった。ちなみにこの作品に桃井はるこさんもキャストとして参加しています。ディストピアというワードもこの作品に出現する。ドクターペッパーもまた、作中に登場する。

*8−2「ロリータ℃」:大塚英志原作の漫画「多重人格探偵サイコ」(*8−2−1)に登場するシンガーのキャラクター。しかし漫画ではあまり出番もなく、大塚英志さんの書いた小説「ロリータ℃の不思議な冒険」を読むと掘り下げられる。僕はこの小説はソフトカバーと文庫、両方持っている。すでに絶版だろうか。ちなみにこの時のCDは遥かな時間を経て、僕の身近なところにあったブックオフで格安で発見し、購入した。しかし怖くて聞けない。

*8−2−1「多重人格探偵サイコ」:過激な描写の漫画で、特定の世代には刺さっている。刺さっている人の大半は、自分の白眼にバーコードがないか、確認したはず。

*9「別のところ」:これは後述の「らしんばん」がある、AKIBAカルチャーズZONEみたいな名称の建物。

*10「商品配置が変わる」:僕は一年の間に四ヶ月の間をおいて三回、訪れたが、毎回、商品の棚の位置が変わっていて、どこに何があるのか、混乱した。全く慣れないし、変化に規則性はないようだった。棚の間で人がひしめき、棚の間の行き来が難しい場面が散見されるため、消防法が守られているか、不安になったりならなかったりする。

*11「メロンブックスだっただろうか」:変な雑居ビルの店舗で、狭い通路の先の狭い階段を上がって、二階から四階くらいがこの店で、各階で同人誌、十八禁ゲーム、CDとDVDというように分けられていた。ここでポアロのCD(*11−1)を見かけて、とんでもないプレミア価格で手が出なかった。

*11−1「ポアロのCD」:オタク界隈で知る人ぞ知る、鷲崎健さんと伊福部崇さん(*11−1−1)のユニット。もともとはラジオ番組「伊集院光の深夜の馬鹿力」に音源を投稿していたらしい。CDは今でも欲しいけれど、中古にすら出会えない。

*11−1−1「伊福部崇さん」:ラジオの構成作家。奥さんは声優の洲崎綾さん。

*12「道にメイドがいる」:秋葉原では道にいやにスカートが短く、裾などが鋭角的なデザインのメイド服の女性がいっぱいいる。何かを配っているようだけど、僕は怖いので受け取らないし、彼女たちがどういう店のメイドなのか、何も知らない。雰囲気からすると、昔からある「メイドカフェ」(*12−1)という感じでもないが。

*12−1「メイドカフェ」:十五年以上前から存在する喫茶店の一形態だけど、僕は入ったことは一度もない。しかし過去に、新宿にあった「面影屋珈琲店」(*12−1−1)に行ったら、店員さんの服装がそれっぽくて驚いた。同行者に変な趣味かと疑われた。

*12−1−1「面影屋珈琲店」:桜庭一樹さん(*12−1−1−1)のエッセイに登場する喫茶店。今は別の名称の喫茶店になっている、という情報をだいぶ前に聞いたが、再訪してはいない。

*12−1−1−1「桜庭一樹さん」:直木賞作家。僕はこの人を「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」で知った。懐かしい時代である。

*13「安いTシャツ」:ここでは古着のTシャツが一着一六〇〇円ほどで買えて、だいぶ極端なデザインのものもあるけれど、部屋着にするにはちょうどいい。ライブTシャツは意外に質もいいと僕は勝手に思っている。僕はここで乃木坂46、槻坂46のライブTシャツをまとめて買って、それを愛用しています。

*14「ブックオフ」:秋葉原のブックオフは一棟丸ごとブックオフなのですが、入るたびに思うのは、一階の入り口のすぐ横手にAV女優のポスターが並ぶ地下への階段があり、AVショップがあると思われるけれど、やっぱり僕は入ったことがない。このように身近に成人向けのコンテンツの店舗があるせいで、秋葉原は「ポルノ街」(*14−1)などと呼ばれるのも仕方ないと言える。

*14−1「ポルノ街」:この呼び方は、賀東招二さんのライトノベル「フルメタル・パニック!」の中で、フランス人のキャラクターが主人公との会話の一節として登場する。僕はそれを読んで、なるほど、と深く頷いた。十五年ほど前、友人と秋葉原をさまよったが、十八禁漫画しか置いていない書店があったり、成人向けDVDがぎっしり詰まった棚がずらりと並ぶ店(*14−1−1)があったりした。

*14−1−1「成人向けDVDがぎっしり詰まった棚がずらりと並ぶ店」:この店はたぶん、大通りに面したところにあり、友人と二人並んで外へ出たら、すぐそばでテレビカメラを回して何かのインタビューが行われており、まさかそんな店から出てくるところが放送されたらどうしよう、と激しく恐怖した思い出がある。それとはまったく別に、平日に秋葉原へ行ったら何かのアイドルが途上で写真撮影をしていて、横目に通り過ぎたが、あれはももいろクローバーだったのでは、と後になって気づいたが、真実は不明。

*15「上の階にある有隣堂」:この書店は紙のカバーの色を選べるのがいい。ただ、この秋葉原の店舗は徐々に小さくなっていて、なくなってしまうのでは、と一抹の不安がある。ここ二年は訪れていないので、現状は不明です。

*16「法外と言っていい値段」:法外ではない。そういうイメージです。

*17「天覧相撲だとわかる」:僕は二度ほど、遭遇した。一度目は今の上皇さま、二度目は今の今上天皇だった。こういう時になると背広のSPが大勢いるのも面白い。

*18「力士弁当」:大関以上の力士がプロデュースした弁当のこと。一時期、これが七種類くらいあり、選ぶ楽しみがあった。タイミングの関係で朝乃山、正代の力士弁当はないのではないかと思われる。今は感染症対策で売られていないはず。

*19「テクニック」:国技館の中には売店がいくつかあり、力士弁当も数カ所で売られている。そのため、一つの売店では品切れでも、別の売店へ行くとまだ売っている、ということは頻繁にある。

*20「弁当の後にでも食べに行く」:特に急ぐ必要はないが混み始めると行列になり、やや待つことになる。以前、本当に混雑した時に長い列ができたが、横入りする客が発生し、相撲ファンは礼儀を重んじない、と僕は認識を改めた。ポスターカレンダーの配布の時にも横入りする人がいたので、やはり相撲ファンは礼儀を知らないと思われる。

*21「いい相撲を取る若いの」:印象深いのは、炎鵬、豊昇龍。特に豊昇龍が幕下で取っていた時の土俵を見たけれど、すごかった。あの時も外掛けで相手を倒していた思い出。ある人は相撲は関取(十両以上の力士)の取り組みよりも、三段目などの方が相撲の技が如実に出て面白い、と発言されていた。それから僕も注目しているけれど、なるほど、正しいかもしれない。

*22「客もヒートアップしてきて」:ある時、僕の後ろの席で小学生くらいの男の子とその父親が観戦していたが、子どもが少年漫画雑誌を賭けて相撲賭博を始めたのは笑いそうだった。子どもは負けがかさんで「次の次の次の次のコロコロコミック」を賭けていた。

*23「打ち止めになる」:一回、結びの一番でおそらく鶴竜と栃ノ心の割が組まれた時、どちらかが変化して勝負がついたが、隣にいた見ず知らずの男性と「あれはいけない」、「力相撲が見たかった」などと短く言葉を交わしたことがある。これもまたヒートアップの一側面と思われる。

*24「目的も減ってしまった」:一時期は物凄く忙しかった。まずブックオフへ行き、そこで本とCDを物色し、次に紀伊國屋書店新宿本店の前を素通りして、隣の献血センターがあった(*24−1)ビルにあったディスクユニオン(*24−2)の中古品を扱う店へ行き、その隣のブックユニオン(*24−3)へ行き、それから紀伊國屋書店へ行っていた。強行スケジュールである。ブックオフは閉店し、ディスクユニオンとブックユニオンが入っているビルは今はもうない。その後、ディスクユニオンは紀伊國屋書店新宿本店の高い階に移動したが、今はまた別の店舗で営業中と聞いている。

*24−1「献血センターがあった」:NHKのドキュメントで取材されていたはず。僕もここで一回、献血した。終盤で冷や汗が止まらなくなり、看護師さんに心配された。自分のすぐ横で血液満タンのパックが機械に揉まれているのは、衝撃的。

*24−2「ディスクユニオン」:東京のあたりで展開されているCDショップで、ジャンル別の店舗をいくつも持つ。僕はその中でもプログレッシブロック館なる店舗で、畑亜貴さん(*24−2−1)と、そのバンドの月比古のCDを買った。ショッパーがかっこいい。

*24−2−1「畑亜貴さん」:作詞家。アニソン関係で大活躍している。一時期、アニメのテーマソングの全てを作詞しているのではないか、と思うほど名前を見かけた。

*24−3「ブックユニオン」:ディスクユニオンの姉妹店で、音楽関係の書籍などを扱う店。僕はここで「渋松対談」(*24−3−1)の本を手に入れたが、まだ読んでいない。ビブリオフィリックという読書用品を取り扱っていて、僕はここのブックカバーを愛用している。しおりもここで配布されているものをずっと使っている。

*24−3−1「渋松対談」:ロック関係の音楽雑誌に連載されていた、もしくはされている対談をまとめたもの。僕はこれを桜庭一樹さんの読書日記で知って、ぜひ欲しいと思って探しまわった。読んでいないのは、もったいないから。

*25「サイン本を探す」:二階のレジの脇に棚があり、何冊かがそこに並んでいる。僕はここで桜庭一樹さんの「GOSICK RED」のサイン本を買ったが、傷めるのが怖くて大切に保管してある。

*26「「孤独のグルメ」でも触れられている」:原作第一巻において、主人公の井之頭五郎が大阪へ出張する前、友人に弁当についてオススメを尋ねると、その友人がホームで買うのは素人のやることだと口走る。僕はこれを最初、冗談だと思っていた。

*27「贅沢の極みである」:僕は駅弁とはそういうものだと思っていたが、何も駅弁にこだわる必要はない、という私見。

*28「スパゲティの店」:何度も前を通っているが、僕は一回も入ったことがない。以前、声優の寺島拓篤さんがラジオで話題にした。

*29「弁当」:とんかつ弁当というが、これが非常に合理的で興味深い。まずとんかつなどの種類を選ぶ。するとキャベツの千切りと一緒に一つの紙の器に入れてくれる。そしてかなり熱された白飯の入った器を出してくれる、という仕組み。料金は白飯とセットなのが不安になるほど極めて安価。

*30「どうしても難しい」:以前、横断しようとしたら失敗し、どこかのサラリーマンに本気でぶつかられて、大変だった。向こうは無言で通り過ぎていったがかなり怖かった。都会は怖い、とあの時ほど思ったことはない。

*31「店員にも活気があり」:何度かマグカップを買うためにカウンターへ行ったが、どの店員も忙しそうにしており、働くとはこういうことだよなぁ、と思った。田舎には存在しない活気だった。

*32「自由席を利用して」:一月の下旬に東京へ行った日に大雪が降り、乗るはずだった特急あずさが運休になった。結局、自由席に乗ったが、この時は弁当をホームで買うはずが余裕がなく、仕方なく乗り込んで買うことにした。したが、車内販売が長い間、やってこなくて閉口した。ついでに、車掌が三回ほど僕の切符を確認してきた。さすがに三回目には僕も空腹で苛立っていたので「さっきも確認されましたけど」と口走った。

*33「思わぬこともある」:ある時、指定席に座っていると、後から隣の席の指定席を取った女性が乗り込んできた。年齢は二十歳くらいで、短大生か女子大生のようだった。その女の子が隣の席で何かのレポートのようなものを書き始めたのだけど、鼻をぐずぐずいわせて、まるで泣いているようで、非常に困った。声をかけると逆に危険だろうと、知らん顔をして僕は隣の席で「闇に魅入られた科学者たち」(*33−1)という本を読んでいた。

*33−1「闇に魅入られた科学者たち」:NHKで放送されている「フランケンシュタインの誘惑」という科学ドキュメンタリー番組を書籍にしたもの。非常に面白い。続刊を希望しているけど、出るのだろうか。

*34「大抵は問題なく」:一度、電車と鹿が接触して長く停車していた時があった。もっとも車内は暑くも寒くもないし、トイレもあるし、指定席なので座るところを奪われることもないし、ただのんびりと待つだけだった。

*35「甲府まで戻れる」:この時点で二十一時半を過ぎていて、驚くべきことに甲府駅は改札の窓口に人がいるだけで、売店も立ち食いそばも閉まっており、なんとも虚しい気持ちになるのは避けられない。

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必然の聖地 ある時代のありし日の日帰り旅行記 和泉茉樹 @idumimaki

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