第42話 恋と蓮の物語


 翌朝。

 目が覚めたれんれんに電話し、神社で落ち合う約束をした。

 手に残る柔らかな感触。それが何なのかは分からない。

 でもなぜか、温かい気持ちになった。





 境内で待っている間、れんは不思議な感覚に戸惑っていた。


 おかしな夢を見た気がする。

 れんくんと二人で、未来の自分たちに会っていた夢だ。

 そこで未来の私たちは、おかしな雰囲気になっていて……

 断片的に、そこであった出来事が脳裏に蘇ってくる。

 いっぱい泣いた気がする。れんくんも泣いていた。

 未来の私たちも泣いていた。

 ただ一番最後の記憶、一番強く残っている記憶では、みんなが笑っていた。

 その笑顔を思い出すと、幸せな気持ちになった。


「ま、いっか」


 夢だろうと現実だろうと、みんなが笑顔になれたんだ。

 だったらそれでいい、十分だ。

 真夏の空を見上げてそうつぶやくと、鳥居の方角かられんの声が聞こえた。


「ごめんれん、遅れちゃった」


れんくんおはよう。私もさっき来たところ。大丈夫だよ」


 息を切らせて走ってきたれん

 れんは微笑み、ハンカチでれんの汗を拭った。





「昨日、変な夢を見たんだ」


「え? れんくんも?」


「も、ってことは、れんも?」


「うん。おかしな夢だったの。でもね、夢にしてはリアルな感じで……本当に経験してきたみたいで」


「僕もそんな感じなんだ。僕たちがね、未来の自分たちに会いに行って」


「ええっ! れんくんもその夢見たの?」


れんもなのかい?」


「……何だろうこれ……ああ怖い怖い怖い、変な夢だっただけでも変なのに、れんくんも同じ夢を見たなんて」


「僕たち、夢の中で意識がリンクしてたのかな」


「リンク? 何だかまた難しい言葉が出て来たけど、まあいいわ、れんくんがそう言うんならそうなんでしょう」


「いや、別に難しくもないんだけど」


「それで? れんくんはどんな夢を見たの?」





「そっかぁ。お互い、結構かぶってるよね」


「こんなこと、現実にあるんだね」


「でもこれって、本当に夢だったのかな」


「どういうことかな」


「私たちが同じ夢を見てた。そう考えるより、実は夢じゃなくて、実際に経験してきた、そう考える方が自然じゃない?」


「いや、未来に行くってことは全然自然じゃないと思うけど」


「そうなんだけどー、ほんとれんくん、夢がないんだから。物語をあんなにいっぱい書いてる癖に」


「ははっ、ごめんごめん。でも確かに、そう思った方が僕もいいかな」


れんくん?」


「夢のおかげで、僕は少しだけ心が軽くなった気がするんだ。色々と悩んでることはあるんだけど、それでも前を向いていこう、立ち向かって克服したい、そんな風にね、今思えてるんだ」


「実はね、私もそんな感じなんだ」


「夢の感想まで、僕たち同じなんだね」


 そう言ったれんの笑顔に、れんは思わず赤面した。


れん? どうかした?」


「ううん、何でもない何でもない」


「顔が赤いけど、ひょっとして熱でも」


 れんが額に手をやる。


「あ……」


 れんの手の温もり。覚えがあった。

 そして同時にれんの中に、不思議な感覚が蘇ってきた。


「……ありがとう、れんくん」


「あ、いや……ごめん、勝手に触っちゃって」


 れんが慌てて手を引っ込めようとした。その手をれんが握る。




 そうだ……よく考えたら私、昨日れんくんと初めてキスしたんだった。

 おかしな夢のせいで忘れてたけど、考えてみたら私、キスして初めてれんくんと……




 そう思うと、恥ずかしくて逃げ出したい気持ちになってきた。

 手を離そうとする。

 その手を、今度はれんが握り返した。


「え? あ、その……れんくん?」


れん……」


 れんがゆっくりと顔を近付けて来る。

 あの時の感覚が蘇ってくる。

 胸が騒ぎ、体中が震える。

 でも、れんにもっと触れたい、そんな感覚。

 れんが静かに瞼を閉じる。

 そしてすぐに、唇に柔らかな感触が伝わってきた。

 ああ、れんくんの唇だ……

 唇を重ね合いながら、れんはいつの間にか笑顔になっていた。

 両手をれんの体に回すと、力強く抱き締めた。


「れ、れん?」


れんくん、だーい好き!」


「僕も……僕もれんのこと、大好きだ! ずっとこのまま、れんと一緒にいたい!」


「私も! まずはこの夏休みからね。付き合い出して初めての夏休み、楽しい思い出でいっぱいにしないとね。ねえねえれんくん、夏休みの間、これから毎日一緒に勉強しようよ。そしてその後で、どこか遊びに」


「いいよ、毎日だって。僕もれんと会いたいから」


「うん! それでね、れんくん。色々考えてみたんだ。一日おきにお互いの家に集まって、午前中は勉強、そして午後からは」


 れんが嬉しそうに笑顔で話す。

 そんなれんを愛おしそうに見つめ、時折れんもうなずく。

 お互い、手を握り合ったままで。






「お幸せにね、れんちゃん、れんくん」


 鳥居の下で二人を見ていたミウが、そう言って微笑んだ。


「……え?」


 ミウが声を漏らす。

 れんれん、二人がミウに笑顔で手を振っていた。


「あ、あはははっ」


 ミウが微笑み、嬉しそうに一声鳴いた。


「これからも仲良くね。それじゃ」



 *********************

 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 作品に対する感想・ご意見等いただければ嬉しいです。

 今後とも、よろしくお願い致します。


 栗須帳拝

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レンとレンの恋物語 栗須帳(くりす・とばり) @kurisutobari

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