第32話 友情
「ありがとう、私なんかのことを好きになってくれて……二度も告白してくれて」
食事を終えた
「いや、それはいいんだけど……と言うか赤澤、私なんか、なんて言わないでくれよな。俺はずっと赤澤が好きだった。赤澤以上に魅力的な女性、他にいないと思ってる。赤澤を好きになったことを後悔してないし、出会えて本当によかったと思ってる。
赤澤は決して『なんか』じゃない。そんな風に自分を貶めないでくれ」
「ごめんね。でも……なんでだろう、無意識の内に言っちゃうんだよね」
「それは黒木のせい、なのか」
「どうだろう……でもそうね。うん、そうかもしれない」
「黒木と別れたのは自分のせい、そんな風に思ってるからなのか」
「私は……
私はその時感じる温もりが好きだった。そしてそれは、
でも付き合いが長くなっていって、お互い少しずつストレスが積もっていった。特に何がという訳じゃなく、ただなんとなく……穏やかすぎる日常ってのも考えものだよね。
そのありきたりの幸せに、いつの間にか気付けなくなってた、そんな気がするの。だからこれは、どちらが悪いってものじゃないと思う。ただ私は、私に愛情を注いでくれた
だから言ったの。私なんかって」
「だから、と言われても納得いかないんだけど……赤澤の心には今も黒木がいる、そのことは分かったよ」
「……」
「返事、聞かせてもらっていいかな」
「うん……あなたはいい人だし、きっと私は幸せになれると思う。でも……ごめんなさい、あなたとは付き合えない」
「俺とは、と言うより黒木以外とは、じゃないのか」
「……」
もし
だから大橋と再会し、再び想いを告げられた今、そろそろ前に進んでもいいんじゃないか、そう思ってた。
しかし、
本当にこれでいいのだろうか。
そう思い、悩んだ。
「分かった」
大橋が大きく息を吐く。
そして少し肩を揺らすと、背もたれにもたれかかって笑った。
「何かこう……すっきりした感じだよ」
「大橋くん……」
「赤澤には黒木しかいない。ずっとそう思ってた。だからこそ同窓会で、幸せそうにしてるお前たちを見たかったんだけど……別れてるとは思いもしなかった。で、未練たらしい俺の心に、また赤澤への想いが再燃した。
これは負け惜しみでもなんでもないんだけど、やっぱり赤澤には黒木がお似合いだと思う。あいつなら赤澤を笑顔に出来る、そう思ってる。だから……何があったのか知らないけど、まだ気持ちがあるんだったら、手遅れにならない内に動いた方がいいと思う。後悔しない為にも。
久しぶりに会えてよかったよ。それから……二度も告白、聞いてくれてありがとう」
そう言った大橋の笑顔に、
「どれだけ願っても叶わない。分かっていたとはいえ、きつかったよ。そして思った。そんな赤澤に、別れてからも想われてるお前が羨ましい、妬ましいって」
「……」
「黒木、お前はどうするつもりだ」
「どうって」
「赤澤のことだよ。あいつは未だにお前のことを想ってる。それは間違いない。
お前らがどうしてこんなややこしいことになってるのか、俺にはさっぱり理解出来ない。でもな、こういうきっかけがあってもいいじゃないか。とんだ噛ませ犬になっちまった俺の為にも、少し考えてみてくれ」
「……ごめん」
「そう思うなら考えろ。そして行動しろ。全くお前ら、仲が良すぎるってのも考え物だな」
小さく息を吐くと、大橋は真顔で
「なあ黒木。最後に一つ、頼まれてくれないか」
「うん、何でも言ってくれ」
「一発殴らせろ」
そう言って
ポンッと、大橋の拳が胸に当たる。
大橋はうつむいたまま、声を絞り出すように言った。
「……俺がお前のこと、殴れる訳ないだろ!」
胸に当てられた拳が震える。
「俺にとってはな、赤澤と同じくらいお前も大事なんだ! そんなお前らがすれ違ったまま、嘘くさい作り笑いで自分を誤魔化してる。そんな姿、俺は見たくないんだよ! 俺はな、黒木。誰よりもお前らに、幸せになって欲しいんだよ!」
「……」
「……次の同窓会。いつになるか分からないけど、必ず来いよ」
そう言うと大橋は立ち上がり、手を振って石段を登っていった。
大橋の後姿を見つめながら、
「ああそうだ」
立ち止まった大橋が、振り返ることなく言った。
「赤澤、お前もだぞ。必ず来てくれよな」
「え?」
大橋の言葉に、
大橋はそう言うと、石段を登り終えて姿を消した。
「今のって、どういう」
その時、草むらから人影が現れた。
「え……なんで」
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