第17話 激しい感情
「難しい問題だよね、本当」
紅茶を入れ終わると、
「私、お酒飲めるようになってるんだ」
「え? ああ、これね。まあ、付き合い程度には飲めるようになったよ」
「やっぱり10年って長いんだな。
「こんなの、全然大人じゃないよ。大人の振りをしてるだけ。中身は全然成長してないんだから」
そう言って紅茶を口にする。
「さっきの話。
「はい」
「いいと思うよ」
「いいんですか?」
「昔の私なら、きっとそうするって思った。まあ、お節介がすぎるとも思うけど……でも自分のことだからね。
「ありがとうございます」
「結果は覆らないけどね」
「……」
そうつぶやいた
でも構わない。
私はきっと、その為に来たんだ。
何もせずに戻ったら、後で必ず後悔する。
そしてそれは、私と
それは嫌だ。
私は
だから私は動く。そして変えてやるんだ、この未来を。
「私たちの心が離れていった理由。あいつが言うように、小さなすれ違いが重なっていったってのもあると思う。でも私にとって、それは大した問題じゃなかった」
「何かあるんですね」
「多分、
「……」
やはり
「私にとって一番の理由。それはね、あいつが夢を捨てたことなんだ」
「え……」
意外な言葉に、
夢を語る
しかし今日、蓮から夢を諦めたと聞かされた。
その事実は、
そして今、10年後の自分の口から、二人の関係にひびが入った理由がそれだと言われた。
「あいつはどう言ってたのかな、夢を捨てた理由」
「
「何それ。あのバカ、そんなこと言ったの?」
呆れた口調で吐き捨てる。
「……まあいいわ。あいつね、就職活動を始める頃に、新人賞に応募してたんだ」
「……」
「何回目の挑戦だったかな。それまで何度も出してた。でもいつも、一次選考にも残らなかった」
「一次にも……ですか」
「うん。でもね、私はあいつの書く物語が好きだった。今は認められなかったとしても、書き続ければいつか認められる、だから頑張って欲しいって思ってた。結果を見て落ち込むあいつを、私は励ました。次があるよ、次はきっといけるよって」
「きっと私も、同じことを言うんだろうなって思います」
「だってあいつ、小説の話になると本当に楽しそうだったから」
「それに幸せそうで」
「そうそう。いつもは口下手で、何言ってるのか聞き取れないぐらいぼそぼそ喋る癖に、小説のことになったら別人みたいにテンション上がって」
「今でもそうです」
「あははっ、懐かしいなぁ」
「本当、
「あははっ……」
「……
「でも結局、その時も結果は出なかった」
「……」
「まあでも、仕事をしながら挑戦する人、この世界にはたくさんいる。私はそんな
「私との未来……」
「これからは地に足付けて、
「……」
「
「私は……」
「腹立たないかしら」
「え?」
「私の為に夢を捨てるって言ったの。どう? 腹が立たない?」
「腹が立つ……と言うか、ショックって言うか」
「まあ、今の
「そんなこと……でも、ちょっと嬉しいかもしれません」
「格好いいよね。好きな女の為に夢を諦める。現実を直視して、二人の未来の為に生きる決意をする」
「……」
「でもね、それっておかしくない? と言うか、私は卑怯だと思う」
「卑怯……」
「あいつはね、自分の限界に気付いてたの。物語を書くのは好き、でもプロとしてやっていくだけの力はないってね」
「
「でもね、それは別に構わない。頑張ったから、努力したから叶う、そんな甘い世界じゃないことぐらい、私だって分かってる。
自分の限界に気付きました、だから諦めることにしました。それなら別によかった」
「じゃあ、何が駄目だったんですか」
「言った通りよ。私の為に諦めるって」
「あ……」
「あいつはね、夢を諦める口実に私を使ったの。私の為に捨てるって言ったの。それっておかしくない? と言うか私のこと、何だと思ってるの?」
「そんな……
「聞こえはいいよね。他の人が聞いたらこう言うんじゃないかしら。『夢を諦めてまで、彼はあなたとの未来を選んだ。そんなにも愛されてるなんて、
「
「いつかあいつは言うんだよ。僕には昔、夢があった。でも僕は、
そしてあいつはそう言うことで、私に鎖を巻き付けるの。お前の為に夢を捨てた僕を、これから一生愛していけってね。誰も望んでないから、そんなこと」
感情を吐き出す
その瞳は微かに濡れていた。
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