第18話 本音
「ごめん、ちょっと熱くなっちゃったね」
少し声を落として
「あいつは私の為、そう言って夢を諦めた。私はショックだった。
でも私はその時、そうなんだ、としか言えなかった」
「どうしてですか? どうして自分の気持ち、ちゃんと伝えなかったんですか」
「どうしてだろうね。私にも分からない。でもね、それでも
大好きなあいつが唯一の夢を諦めた。そのことに私が口を挟んだら、二人の関係にひびが入るかもしれない……そんな風に思ったからかもしれない。私にとって、
その時の感情が、いつまで経っても消えなかった。何かある度に思い出して……
だからね、自分から連絡を取らないようになっていったの。顔を合わせば何か言ってしまいそうで……それにあいつね、作家になることを諦めてから、変な笑い方をするようになったんだ」
「そんな顔見たくなかった。私を見て優しく微笑んでいる。でもね、笑顔を向けられる度に、『お前のせいで夢を諦めたんだ』って責められてるような気がしたんだ」
「……」
「それからはまあ、あいつの言った通りかな。連絡を取り合うことが少なくなっていって、いつの間にか自然消滅」
でも、それでも。
今、自分の中に怒りの感情はない。
寂しくて哀しくて、ショックでいっぱいだった。
もしかしたら既に気持ちは冷めていて、断筆はただのきっかけにすぎないんじゃないだろうか。
真実が知りたい、そう強く思った。
「
そう言った
「な、何かな。ちょっとだけ目、怖いんだけど」
「これから聞くこと、それは私にとっても大切なことなんです。だから誤魔化さず、正直に答えてほしいんです」
それは紛れもなく自分のものだと
相手と本音でぶつかりあいたい。そう思った時に多分、自分はこんな目をしてるんだ。
そしてそんな目をしたのはきっと、
私はあの日から、人と真っ直ぐに向き合うことをやめた。
でも目の前にいる10年前の自分は、まだそれを失っていない。
若かった。でも、楽しかったな。
そんなことを考えてると、知らぬ間に
「
「いいよ。自分相手に嘘ついても仕方ないし。と言うか
「……
「……」
「
「……だろうね」
「実はその前から、
「流石私だね。最初に不信感って出してくるなんて。きっと
「はい。うまく言えないんですけど、不信感って言葉が一番合ってるような気がしました」
「間違ってないかな。
「じゃあやっぱり、何か」
「私ね、処女なんだ」
「…………え?」
つい数時間前、初めてキスをしたばかりの
自分にとっては、手を繋いで歩くだけでも大変なことだった。
友人から
自分にとって初体験は、遠い未来のことだと思っていた。
いずれそういう時は来るのだろう。そして勿論、相手は
そんなことを思い、何度となく家で枕を抱き締めていた。
その言葉を今、10年後の自分が口にした。
そしてはっきりと聞こえた。処女だと。
10年後の未来。
10年後の自分はまだ、経験をしていない。
目をパチパチさせる
「あのその……
「私は処女。そういう経験をしてないって言ったの」
「え? え?」
思考が追い付かない時に、目をパチパチさせる癖。ああ、やっぱりこの子、私だな。
そんなことを思いながら、
「私はこの10年、
「10年経っても私、
「残念だけどね」
「でもどうして」
「
「え?」
「そういうことは、
「……」
「初めてキスした時のこと、今でもよく覚えてる。あいつ、震えてたよね。それなのに目だけは真剣で、私、ちょっと怖かった。
「……私もそう思いました」
「告白の時だって、半分べそをかきながらだったけど、本当に頑張ってた。そしてその時思った。こんなに
「そう……ですね」
「でもこういうこと、私からする訳にはいかない。はしたないって思ってた」
「私もそう思ってます。はしたないって思われたくないし、幻滅してほしくないから」
「だから私は待ってた。
「……」
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