第15話 髪
「悪い冗談かと思ってたんだけど、本当だったんだね」
そう言って微笑んだ
「初めまして、でいいのかな。10年後の世界にようこそ、
この世界の
ミウから住所を聞き訪れた場所。そこは
それは、腰の辺りまである髪がばっさりと切られていたことだった。
肩に少しかかる程度になっているその姿に、
「髪」
「え?」
「さっきから髪ばっか見てるよね、
「あ、いえ……ごめんなさい」
頭の中を覗き込まれたような気がして、
「まあ、仕方ないかな。
「
「うん。確かに
「はい」
「だから切ったの」
「……」
「私たちが別れてるって、もう知ってるんだよね」
「はい……
「色々あったんだ、私たちも。
「そう……ですね」
「あいつと正式に別れて、もう3年になるし」
「正式にって、どういうことですか」
「大学卒業の頃には、連絡を取り合うこともほとんどなくなってた。たまに連絡が来て、一緒にご飯を食べに行って、近況報告をして。そんな状態が3年ぐらい続いてたんだ。そしてある時、私の方から言ったんだ。『私たちの関係、これって続ける意味ある?』って」
「……」
「あいつも同じことを感じてたみたい。だからあいつも、『確かにそうだね』って言った。
で、形だけのお付き合いもそこで終わり。お互い新しい道を進んでいこうってことになったんだ」
「今は、その……
「会ってないね。まあ同じ街にいた訳だし、道ですれ違うぐらいはあったよ。でも話をする訳でもなく、まあ……挨拶程度、かな」
「……」
「で、あいつと別れてしばらくして、ばっさり切ったんだ。その髪」
そう言って
「それはその……よくある、失恋した時に髪を切る、みたいなことだったんでしょうか」
「う~ん、ちょっと違うかな。
「そんな……」
「あいつはもう、私の彼氏じゃない。あいつが褒めてくれた髪、好きだと言ってくれた髪を切ることで、私も気持ちを切り替えたかったんだと思う」
「嘘」
「嘘じゃないよ。だって
「嘘です。だって
「それは……」
「私と
涙を浮かべ、
「悪かった、悪かったわ。だからほら、泣かないで。いくら自分相手と言っても、10歳も下の女の子を泣かせてるって思うと辛いから」
ハンカチで
「……」
口いっぱいに甘みが広がっていく。
この世界に来てから、ずっと気を張っていた。
想像もしてなかった未来。
まるで今の自分が否定されているような、そんな気持ちにさえなっていた。
そんな
ほっとする、そんな感情が沸き上がってきた。
「
「……」
「降参、降参するからさ、そんな目で見ないでって。髪を切ったのは、
「やっぱり、そうなんですね」
「あいつが好きだった髪を切って、その姿をあいつに見せる。あんたがいなくても全然平気、私はこれっぽっちも落ち込んでませんよって言いたかったんだ。それから、その……ちょっとだけ、ざまあみろって思ってました、はい……」
そう言って
その姿を見て、
ああ、やっぱりこの人は私だ。
いつも強がって、勢いで周囲を荒らしてしまう。
でも本当は脆く、少しでも傷つきそうになったら守りに入る。
そしてそれすらも見透かされた時。その時はこんな風に、叱られた子供の様に大袈裟に落ち込んでしまう。
そう思うと、口元が緩んできた。
「ふふっ……」
「えーっ? 何その笑い、ひどくない?」
「ふふっ、ごめんなさい。でもその……ふふっ、鏡を見て喧嘩してるみたいで」
「……確かに。その例えはあってるかも」
「でしょ?」
「だね」
「私らしいです。別れたから、当てつけで
「もおーっ、何よー。そんなに笑わなくてもいいじゃない」
「ごめんなさい、でも……あははははっ」
「あはははははっ」
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