第10話 親
うつむき、肩を震わせる
「
後ろを向き床を見つめる
「あ、いや……なんでもないよ、弘美さん」
「と言うか母さん、
智弘が声を荒げる。
「そんなこと言ったって」
「そんなことも何もないんだよ。母さんがそうやって
「だってそうじゃない。
「そうやって母さんの気持ちばっかり押し付けるなって、俺は言ってるんだよ。少しは
「私は親なんだよ? 子供の心配するのは当然じゃない」
「心配はしてくれていいよ。俺が言いたいのはそうじゃなくて、母さん、口を開けば愚痴ばっかりじゃないか。
智弘の言葉に昌子が口ごもる。
さっきまでの和やかだった食卓が、一気に重苦しい雰囲気になっていた。
「ま、まあまあ……
重い空気を何とかしようと、弘美が間に入って智弘をなだめる。
「お義母さんもね、久しぶりに
弘美の気遣いを感じた智弘が、小さく息を吐くとビールを口にし、「まあ、そうなんだろうけど……」そうつぶやいた。
「母さんだってね、別に
「分かってる、分かってるから」
「母さんの気持ち、ちゃんと分かってるから。僕を思ってくれてることもね。でもね、
「……そうだよ。私も
「いや、だから……捨てたとか捨てられたとか、そんなんじゃないんだって。恋愛ってのはそんな単純なものじゃない。人の心は誰にも分からないし、縛ることも出来ないんだって」
諭すような
「これ、持って帰りなさい。家でもちゃんと食べるんだよ」
「ありがとう、母さん」
「でもまあ……
捨て台詞のような言葉を残して、昌子は部屋へと戻っていった。
その言葉に、
「……」
「すまなかったな」
「いや……帰ってきたらこの話になる、分かってることだから」
「まあ、言ってることの半分ぐらいは嘘なんだ。本音のところじゃ、
「なんだよそれ、ははっ」
昌子が去ったテーブルで、
弘美は昌子のことが気になると、部屋に行っていた。
「それくらいお前らが付き合った時、喜んでたってことだよ」
「兄貴を差し置いて」
「全くだ。あの時の俺には、まだ一人の彼女もいなかったんだからな」
「女友達は山ほどいたのにね」
「でも付き合いたいって思える女には出会えなかった。だからお前が
「でも今では、あんないい嫁さんがいる」
「まあな」
「しかも僕と
「おいおい、まだそれを言うか」
「ずっと言うけどね」
「お前なぁ……勘弁してくれよ本当。いつも言ってるけど、偶然だったんだから」
「弘美さんの名前を聞いた時は驚いたよ。僕と
「確かにそう思ったことはあるけどな、それはそれ、これはこれだ。ただの偶然、偶然なんだからな」
「ははっ。でも弘美さんに『
「ほんと、その辺のことも含めて……勘弁してください」
「了解。今日はこれぐらいで」
「てめえ」
「ははっ」
兄弟がビールを飲みながら、楽しそうに語り合う。
そんな中、
「
「大丈夫なのかい?」
「ん? 何か言ったか?」
「あ、いや、何でもない」
笑顔で誤魔化した
「それで? 結局お前は行かなかったのか?」
智弘がビールを一口飲み、思い出したように聞いた。
「どこに?」
「どこにってお前……あったんだろ、同窓会」
扉越しに昌子と弘美の声が聞こえる。
「……」
ほっとした表情を浮かべ、
絨毯の上に座っている二人。昌子の手にはアルバムが持たれていた。
「この頃から、ずっと仲良しだったのよ」
開かれたページには、
「入学式の時の写真よ。二人ともかわいいでしょ」
「そうですね。でも
「お父さんが写真を撮るって言ったら、急に怖い顔になってね。
「
「
「でも……いいですね、幼馴染って。そういう人、私にはいなかったから羨ましいです」
「この子たちは幼馴染って言うより、兄妹って感じだったと思う。それくらい、いつも一緒にいたから」
「そうなんですね」
「みっちゃんと私はね、ここに越してきた頃から仲が良かったの。毎日会ってたわ。だからあの子たちも、お互いの家を自分の家みたいに思ってたんじゃないかしら。よく泊まりに来たり行ったりしてた」
みっちゃん。
「よくみっちゃんと話してた。二人共このままずっと一緒で、大人になったら結婚するんじゃないかって。私もみっちゃんも、そうなることを望んでたような気がするの」
「ふふっ」
「だから二人が付き合い出した時は、本当に嬉しかった。変な言い方になるけど、我が子二人が一緒になってくれた、そんな風に思ったものよ」
「そうなんですね」
「でも……長く続かなかった。私もね、
「ですね……」
「でも辛かった……こんなことになるんだったら、二人共付き合わなければよかったのにって思ったわ。あのまま仲のいい幼馴染だったら、今でも
「お義母さん……」
「私にとっては、
「そうかもしれませんね」
「でも、それは夢だった……私だって本当は、
「分かってます、分かってますよ、お義母さん」
「でも……
弘美は昌子の肩を抱き、「大丈夫ですよ、お義母さん。
そんな二人を見つめながら、
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