「私は抜いちゃったんですよ!」……「無駄づかいに理屈が乗るとイラっとするわ」……「|白銅貨一枚《びた一文》だってまかりませんからね」

「今回ケーシーは出番なかったね」


 王都への帰り道、俺が言うとケーシーはムッとした様子。


「あのなあ、ドクティリアをやっつけたのはだいたい俺とクロだぞ。あとカザンと。お前ら大騒ぎしてただけじゃねえか」

「まあまあ。魔法剣が抜けなかったからってひがまないひがまない」

「ひがんでねーよ! というか、別にそれほど欲しくないし。抜けなくてむしろ良かったかもしれねえ」

「ぬ、ぬ、ぬぬぬ抜けなくて良かったってなんですか! 私は抜いちゃったんですよ!」


 例によってルミが怒り出す。伝説の魔法剣を振り回すなってば。


「自分で抜いたんじゃねえか……まあ、俺には魔法剣がなくても、これからも剣を買いあさる楽しみが残ってるしな」

「ほんとに無駄づかいが好きだな」

「無駄じゃねえって。得るものに対して対価を払うのが快感なんだよ」

「払うと言えば、ケーシーもラゴンジジイから酒を買えばよかったんじゃないの?」

「いや、興味無ェな」

「無駄づかいチャンスなのに」

「あれは金儲けチャンスだろ。アリーテが儲け話に飛びつくのもお国の事情でわかるけど、俺は純粋な消費を志向しているわけ。いわば、使い切る美学。儲かっちゃあ元も子もないのよ」

「まったくわからん。と言うか無駄づかいに理屈が乗るとイラっとするわ」

「待てよ? 魔法剣は買えなくても、その所有者ならどうだ。ルミを買えばいいんじゃないか」


 おいおい、なんか変なこと言い始めたぞ。


「ルミ、いくら払えばお前を雇える?」

「ひぇ? わわわわ私はアリーテ様にお仕えする侍女ですので……」


 怯えてアリーテの後ろに隠れるたルミに代わって、アリーテが胸を張って答える。


「ルミは私のよ! どんなに金を積まれても売らないわ!」

「お、お嬢様!」

「わかった。ということはアリーテごと買えばいいんだな」

「おい! 一国のお姫様だぞ」

「高くつくわよ」

「売るんかい!」

「ロ=ミルア王国の始祖ロムルス一世は‪──‬」

「わかったぞ。自分を売った結果、戦争に負けて、相手と仲良くなったんだな」

「だいたい合ってるわ。とにかく私を雇うと言うのなら、週に金貨二十枚二十キーニカ。四週間分先払いを要求します。白銅貨一枚びた一文だってまかりませんからね」

「二十枚の四週間……てことは金貨百枚百キーニカあればとりあえず足りるな」


 あっさり金貨の袋を渡すケーシー。アリーテは渡された袋を片目でのぞき込んで中身を確かめながら、ルミに話しかける。


「いいですか。ルミ。レムス一世は価格交渉する時に相手の瞳に注目したといいます。最初の金額で相手が動じない時は、まだ払える証拠。『今のは一人分です』と付け加えて値段をつり上げるのですよ」

「お、お嬢様、全部相手に筒抜けですよ」

「二人分なら倍あればいいってことだな。ほらよ」


 あっさり金貨の袋を追加するケーシー。両手に金貨の袋を持って、アリーテは若干動揺した。


「お、お、お嬢様、二人分でも動じない時はどうするんですか。ケーシー様はまだ払えそうですよ」

「そ、そういう時は……『魔法剣は別料金です』と」

「魔法剣はいくらなんだ」

「それはもちろん、それぞれ一人分です」

「フホホ……伝説の魔法剣のわしらが金で買われたの初じゃな。しかも持ち主ごと」

「……」

「じゃああと二人分追加だな」


 金貨の袋を二つ、ルミに渡すケーシー。その重みにがくっと膝を突くアリーテ。


「負けたわ……もう釣り上げる口実がありません」

「おおおおお嬢様、気を確かに」

「いや、アリーテの勝ちだろこれ。いいように値段釣り上げられてるじゃねーか!」

「だが精神的には勝った」

騎士様エヴァン~~~~! ケーシーがアリーテ買っちゃったよ!」

「大丈夫、心までは売り渡しておりません。心はいつもエヴァン様のものですわ」

「心までは俺の方も要らんわ」

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