課金勇者! 節約ジャックと紅蓮《あか》い金かけ男
「あっちの陛下がカブってんのが悪いんだから」……「お給金もらってるんだからついてくるのは当たり前じゃないの」……「両方抜けたらどうしよう」……「斜めっておる」
「あっちの陛下がカブってんのが悪いんだから」……「お給金もらってるんだからついてくるのは当たり前じゃないの」……「両方抜けたらどうしよう」……「斜めっておる」
森の奥に向かって俺たちは
告知
これより先、ティルト王国の秘宝魔法剣の保管区域につき、許可なく立ち入りを禁じる。
万が一、魔法剣を抜くことができた場合は褒賞があるため、王城に名乗り出ること。
「……禁じてるのか抜いていいのかどっちなんだよ」
ケーシーが言うと
「王城としては、気にいらない奴が入ったら禁を破ったかどで捕らえたいし、気に入ったやつが抜いたらそのまま王城に来てもらいたいし、どっちつかずにならざるをえないんスね」
立て札を超えてもう少し進むと、魔法剣の座があった。
小さな泉の中央に、大きめの食堂くらいの広さの土地がある。島というには小さいから盛り土と言った方がいいかもしれない。その盛り土の中央、大きな石の台座に、騎士の像が立っている。
「あの騎士像は、伝説的な騎士ハイダラの像スね。錬金術でいう『水による浄化』を象徴してるんス」
騎士像の足下に剣が無造作に突き刺してあった……二本も。
「二本あるじゃん」
ケーシーが感想を言うと
「あ、知らなかった? 伝説の魔法剣は二振りあるんだ」
「ふーん。両方とも俺が試していいのか?」
「もちろん。陛下もそのつもりだっただろうし」
「なんでそこでヘーカが出てくるの?」
俺がヘーカを横目に見ながら尋ねると、
「ああ……そっちのヘーカじゃなくて、王宮で謁見した方の陛下がね」
「ああそっちの陛下ね。ややこしいな」
「わかりやすくしたつもりじゃったがややこしかったかのう」
へこむヘーカに慌ててフォローする。
「あっ、いや別にヘーカが悪いわけじゃないよ。あっちの陛下がカブってんのが悪いんだから」
なぜかますますへこむヘーカと、何か笑いをこらえてるケーシー、クロ、
「本名の方がよかったかのう」
「へ、陛下……ダメですよ本名は」
心なしか青ざめて
「やっぱダメかな」
「ダメですよ! 何を考えて──」
「へぇ?
「あー……公的な場で使われる一般名なら……」
「なにそれ」
「真名はさすがに知らない」
「真名って!」思わず笑ってしまった。「王侯貴族とかがつけるやつでしょ。誰にも教えないって……」
「正確には、本人と両親、あとは神殿関係者くらいスね、真名がわかるのは」
「あっ、そうか。
そりゃあ騎士様だもんな。騎士って、貴族の出身て方が普通らしいし。
「はいはーい! わしエヴァンの真名知ってまーす」
「ちょ、陛下!」
「ええー! なにそれなんでヘーカがエヴァンの真名知ってんの」
「エヴァ様……いつの間にその方と真名を交換するような仲に」
「ひ、姫様、お気をたしかに。もう決着ついてるみたいですけどエヴァン様に見捨てられたとしても、私は姫様についていきますよ。お給金もらってますから」
「お給金払ってるんだからついてくるのは当たり前じゃないの」
「言われてみればそうですね」
ケーシーは改めて魔法剣に歩き出した。
「とにかく。二振りとも抜けるか試してみればいいんだな。両方抜けたらどうしよう」
「まあ抜けてから心配したらいいじゃない。大体ケーシーは『剣は何本あってもいいものだ』って言ってたじゃん」
「ま、そりゃそうだ」
「でも魔法剣の二本持ちなんて、魔力消費が激しくて……大変ッスよ?」
最初に異常に気づいたのはクロだった。
「ケーシー様、あれを」
「うん?」
見ると、泉の対岸を鹿がフラフラと歩いている。俺たちに気づいていないようだ。足取りがおかしい。そのうち、パタリと倒れた。
「どうやら、噂の水質異常らしいな」
よく見ると、対岸のあちこちに動物が倒れていた。死んではいないが、まともでもない。中には弱々しく逃げようとする動物もいたが、大半は目を回しているようだ。
「確かに異様な光景だな」
「採取しましょう」
「おかしいなあ、今度こそ色が変わると思ったのに、変化なしス」
「小瓶の魔法に間違いってことはないのか?」
「まるっきりないとは言わないスけど、街にいる間に、実際の毒物で変化するのは確認してあるっスよ。術式自体は、業界標準を使ってますし」
ヘーカが興味深そうに水をのぞきこんだ。
「しかしのう。ここの水場は明らかに異常なんじゃからな。飲んでみりゃわかるんじゃないか?」
言うが早いか、手のひらに水をすくってごくごく飲み干す。
「へ、陛下!」
「うーん、なんともないのう」
「危険な真似はご遠慮くださいと申し上げてるじゃないですか! 遅効性の毒の可能性もあるのですから」
「エヴァン様……やはりその方が心配ですのね。愛ゆえに……」
「あああのあの姫様、お気を落とさず。遅かれ早かれ愛想を尽かされるのは私の想定の範囲内でしたから」
「ルミ……それ、慰めになってないよ」
ひっっかっぷ。
「え?」
妙な音がした方を俺が見ると、ヘーカがニコニコしながら立っている。
「ひっく。うーむ。なんだかいい気分じゃな」
「ちょっと、ヘーカ? どしたの?」
「どうもこうも、ありゃせぬわい」
ヘーカは突然ゲラゲラ笑い始めた。
「ははは。お主らなんじゃ。斜めっておる。はは」
「いや斜めになってるのヘーカの方だから!」
「それを言うならジャックは二人になっておるではないか。二倍二倍にばーーい」
「んなわきゃあない」
「こ、これは……もしかして」
「ほうら耳がこんなに大きくなっちゃったー!」
「うっ。ううっ。しくしく。なんと……耳がそんなに大きく……かわいそうに、カザンとやら、同情するぞ。安心しろ、わしの城には耳が大きいからといってお前を邪険に扱う者はおらぬ。安心せい。安心せい。わしの城にはおらぬ。耳が大きいのはおらぬ。安心せい。安心……」
「ウケるかと思ったんスけどウケませんでしたね」
「こら! 宴会芸してる場合じゃないでしょ!」
「これは酔っ払ってるな」
ケーシーは泉から水をすくって手に乗せて、匂いをかいでいる。
「お酒?」
「うーん、どうみてもお酒には見えんけど」
「あ、でも」
俺はぽん、と手を叩いた。
「ほんのり匂いがするってさっき言っただろ。お酒の匂いだ。言われてみれば」
「それに」と
「味も匂いもしない酒……だが何で急にそんな風に変化しちまったんだ?」
「普通じゃないっスね。何かの魔法とか」
「普通じゃないのう。おぬしら普通じゃない。そっちのノッポはやけに赤いし。おぬしはほうき持って。普通じゃない。ははは」
「陛下、お待ちください! 脱がないで!」
「エヴァン様……やはりその方のことが」
ケーシーはため息をついた。
「誰かあいつらを黙らせろ」
「あはは、お酒も入って、ますますピクニックみたいだね」
「そういう問題じゃねえ!」
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