「おお、来た来た」……「覚悟してたの⁉︎」……「身を挺して姫君を守るよ?」
ケーシー、クロが前方を、
クロが小さい声でケーシーに囁いている。
「男が一人。川沿いの岩に腰かけているようです」
「何者だ?」
「商人にしては荷物がないですし、悪党にしては身なりが小綺麗ですね」
「ふーん。まあ街道筋からはちょっと離れているけど、怪しいやつと決まったわけでもないし、話しかけてみるか。エヴァンと
俺たちは背の低い木の陰から顔を出して姿を見せた。初老の男だ。こんな森の中で突然三人も出てきたのに、男は警戒するどころか、こちらを見てニコニコと嬉しそうにした。
「おお、来た来た」
こちらに聞こえないような小声だったが、俺は耳がいいんだ。つい反応してしまった。
「えっ?」
「いや、なんでも。こちらの話だ」
アリーテを守って後列から出てきた
「へっ陛っ」
「へええーーー囲いのかっこいい騎士様だなあエヴァンちょっと話がある」
おっさんは
「……あら? エヴァン様? エヴァン様?」
「ああああ、あの、エヴァン様ならたった今、木陰に」
「ああ……きっと私のために何か素敵な花でも探しに行ってくださったのね。私はエヴァン様さえいてくれたらそれでいいのに」
「いえその、あの、初老のおじさんと一緒に木陰に」
「……初老のおじさんと? まさかエヴァン様にそういう趣味が?」
「い……いえいえいえいえいえいえ。そんなロマンチックな雰囲気ではありませんでしたが初老のおじさんがエヴァン様をしっかり抱き抱えたまま」
「ルミ、言い方。誤解を助長してる」
「まさか……エヴァン様に限って……浮気だけなら覚悟はしていましたが……」
「覚悟してたの⁉︎」
「これは流石に想定外ですわ。でも……エヴァン様、私は、あなたが幸せなら」
「待って。その先へ進むのちょっっっと待って」
俺は慌ててアリーテの思考を止めた。ケーシー、クロ、
「ケーシー様、今の方は、あの、先日、王宮で拝謁した……?」
「人違いかと思ったけどやっぱそうっスよね……」
俺は木陰に近づいてヒソヒソ声に耳を傾けた。俺、耳はいいんだ。
(一体何を考えておられるのですか! 芸人の真似事はともかく、護衛になるのは無理ですと申し上げたでしょうが)
(ふふふ、名案だろう? たしかにわしが護衛すべき要人は国内にはいないかもしれんが……)
(当たり前です! 自分より偉い人に守られる要人がどこにいますか!)
(だが! 他国の姫君ならわしが守ってもいい道理)
(いいわけないです! 第一、アリーテ姫は私が守ります)
(やきもちは見苦しいぞ? 少しくらいわしにも護衛させてくれたって)
何の話かよくわからないが、言い争っているようだ。しばらくして二人は木陰から戻ってきた。
「今回だけですからね」
「わかったわかった」
ケーシーが声をかける。
「で?」
「おお、エヴァンが……いや、エヴァン様がな。万が一にもアリーテ姫に何かあっては大変だから、雇ってくれると」
「ふーん。で、誰がおっさんを守るんだ?」
ケーシーが真顔で尋ねる。
「わし? わしゃ護衛じゃから……身を挺して姫君を守るよ?」
ケーシーが
「だってよ?」
「僕が二人とも守るよ……」
ため息をつく
「何だかよくわかんないけど、おっさんも一緒に来るってことだよね。名前は?」
おっさんはうなった。
「そうだな……ヘーカと呼んでくれ」
エヴァンが飲んでた水を吹いた。わ、汚えな。
「ちょ、陛下、それは」
「おぬしもこれなら呼びやすかろう?」
俺は首を傾げた。
「? 本名じゃないの?」
「あだ名みたいなもんじゃな」
「へー。あだ名親父もそういや『左剣のマイルズ』略して『剣マル』って呼ばれてたな」
「いや、ジャック、お父上の話は」
なぜか遮ろうとする
「ほう」
ヘーカの目が面白そうにキラキラ輝いた。
「ジャックの親父さんはマイルズと言うのかね」
「うん、ちょい前に病気で死んじゃったけど。ポートンの『左剣のマイルズ』ったら貧民街じゃちょっとした顔だったんだぜ」
「左剣のマイルズ。そりゃ強そうな名前だ」
「
エヴァン顔を両手で覆ってなにかつぶやいている。
「いや……もうちょっと調べてから報告をと思ってたことがあって……でももういいんだ……」
「なんだよ? ブツブツ言って。らしくないなあ」
「エヴァン様……新しい愛の形に悩むお姿も素敵。私は、私は遠くからそれを見つめているだけで」
「こっちの問題がまだ片付いてなかった」
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