十二話 それって「恋」してるよ
「よかった。顔色が戻ってきたみたい。寒くない?」
「ありがとうね。私、情けないなぁ……」
いくら暖かい季節だと言っても、あれだけの雨に打たれては冷えてしまうのは当然だ。
「あんなの相手にしてたら疲れるよ。仕事しに来ているみたいだもん。明日はゆっくり出来るんでしょ?」
明日の自由行動は、時間の管理も各々に任されるから、もし誰かが遅刻をしたとしても結花の責任とはならない。それはちゃんと修学旅行のしおりにも書かれている。
「うん、終日自由だからね。一人で水族館行ってくるよ」
「そっか。ごめんね一緒に行けなくて」
「ううん。クラス違うし、さっきのこともあるから、私は一人の方がいいと思う。ちぃちゃん、私のことは気にしなくていいよ。彼氏さんに悪いから」
「へっ⁉」
もう、この場面でそれを言う? 心配しなきゃならないのは結花の方なのに。
あたしに交際相手がいることはクラスの誰も知らない、結花だけには話したけれど、この親友は状況を察して誰にも口外しないでいてくれている。
「ずっと私のこと気にしてくれてありがとうね。私は大丈夫。ちぃちゃんが幸せになっていくなら、私はそれを見送っているから」
「まったく、そんなこと言って、強くなったのかと思ったけれど、結花だって好きな人が出来たんでしょ?」
「えっ? 私は……、でも……ただ……」
顔を真っ赤にして慌てる結花は、妹のように接しているあたしから見ても可愛かった。
「うぅ……、でも、好きってどういうことなのか分からない。きっと、私のこと見てくれる人なんていないよ。高校になっても初恋まだなんて知ったら、みんな引いちゃうもん。でも、どうしたら好きになったっていうのかな、恋ってどうすれば出来るのかな……」
「結花……」
顔が赤いのは恥ずかしいのか、熱いお湯で少しのぼせてきてしまったせいなのか。
急いでお風呂を切り上げて、エアコンを効かせた部屋のベッドに寝かせ、濡れタオルを額に乗せてあげた。
「ありがとうちぃちゃん……。迷惑ばっかりかけちゃってるよ……。こんな私、愛想尽かされちゃって当たり前だったんだよね……」
寝やすいように薄暗くした部屋、あたしは結花の制服を
「中学生の時にね、何回か男の子に声をかけて貰ったことがあったよ……。でも私ね、喜んで貰うことが出来なかった。みんな離れていっちゃった。女の子たちの恋の話も分からなくて……」
「結花、今のあんたはちゃんと恋してる。誰のことだかあたしには分からないけど、その人と一緒にいたいって思うんだったら、立派な恋だよ。進め方なんて教科書は無いから。結花のその気持ち、大事にすることから始めればいいんだよ」
「うん……」
気持ちも体力も疲れていたのだろう。結花はとろんとした目であたしを見上げていた。
「結花、制服はあたしの部屋で乾かしておくから、明日の夜届けに来るよ。明日は私服の楽しみの日なんだから、ゆっくりしておいでよ」
明日は誰からも制約を受けることが無い。結花が提出していた計画は、水族館で終日を過ごすと書いてあった。
「ありがとう……、お姉ちゃんみたいだぁ……」
「あたしも結花みたいな妹がいたら、もう少しマシな女の子になれたかな?」
答えが無くて、すでに結花は寝息になっていた。
彼女の額に乗せた濡れタオルをもう一度交換して、そっとドアを閉めた。
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