四章 日常生活と思い出

八話 もう一年経つんだ…


「じゃあ、あたし片付けとお風呂に入って寝るね」


「おぅ、じゃあ俺はレポートでもやるか」


 食事も終わって、あたしは食器の片づけと洗濯に取りかかる。


 概ね二週間に一度、和人は実験レポートを抱えるので、その週の金曜日はこの時間から部屋に籠もることが多い。


 そこで調べたりないものがあると土曜日に図書館での調べ物に行ってしまう。


「冷えるから、風邪ひかないでね」


「千佳もな」


「うん、ありがとう」


 邪魔をしないように、リビングのテレビと照明を消してキッチンだけの明かりにした。


 和人の部屋でパソコンを立ち上げる音がする。この部屋を借りたとき、唯一の問題だったのが、古い物件だったために十分なインターネット環境が入っていなかったこと。


 この部屋を契約したときに、電話はスマホが二台あることから固定電話は見送ったし、学生二人というまだ半人前のあたしたちが電話や光ケーブルなどの工事契約をするわけにもいかない。


 そうかと言ってスマホで全てをこなすわけにはいかない。そんなときには流石に理系の和人だった。


 窓際にモバイル無線LANルーターを置いてくれて、この問題をあっという間に解決してくれた。マンションの一部屋で、特に動画を毎日観ることもないあたしたちの使い方ならこれでも十分に用が足りる。


 二人分の部屋代を半分近くに減らすことが出来ていたから、その費用も賄えた。


 お皿を洗いながら去年の春を思い出す。


 お互いの両親から二人で同居の許可をもらった後のことだ。お部屋を決めて、和人の名前で契約もしてもらった。


 いざ荷物を運ぼうとそれぞれの持ち物を確認したときに、和人の部屋からは本棚と小さなコタツくらいしか家財道具がなかった。


「もー、どういう生活していたのよ?」


「だって必要ないし? せいせいお湯沸かせれば十分だ」


 彼が借りていた部屋が一口コンロに小型冷蔵庫付きの物件だったこと。目の前にコンビニやコインランドリーなどの便利な施設があったから、何も大きな家電品を買う必要がなかったという。テレビだってパソコンで補っていたし。


「どうりで、いつもあたしの部屋に遊びに来ていたわけだねぇ」


「何もない割には散らかっていたからな」


 さすがに女のあたしが下着までコインランドリーというわけにいかないし、食費の節約には自炊が一番効くから、洗濯機や少し大きめの冷蔵庫や電子レンジも買ってあった。


 寝室も兼ねる双方の部屋に勉強机を置くことも出来なかったから、リサイクルショップで買ったあたしの部屋にあった二人用のダイニングテーブルを食卓兼用にして転用した。


 テレビも今度の部屋は端子がリビングにしかないので、あたしが持っていた物を提供した。


 その前に和人が持ってきたコタツを座卓兼用で置いた。こんな感じで、それぞれが持っていたものを持ち寄ったから、新しく買い足した出費は大きくなかった。


 あたしたちがこの生活を始めるにあたって買ったのは、双方自分の部屋に置く折りたたみテーブルと座椅子くらいだ。


「もう一年経っちゃうんだなぁ」


 食器を片付けて、テーブルの上を拭く。ダイニングの明かりも消してパジャマを取りに自分の部屋に戻って衣装ケースをあけた。

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