第9話 最後の緊急事態・・・そして、伝えたかった言葉
風雲急を告げる展開。
「ど、ど、どういう事?」
話によると車で送ってあげると言われて、長い常連さんだし信用して乗ったらしい。
ところが、マンションが近付いたところで降ろしてほしいと言ったところ、急に無言になり車を走らせ続けているとの事。
「ちょー、そいつに変わって!」
男に携帯を渡したみゆちゃん。
「・・・はい」
無機質に答える男。
「お前、コラっ!誰の女に手出してんのかわかっとんのかっ!お前、俺の女に指一本でも触れたら殺すからなっ!脅しで言うてんちゃうからな!!」
「・・・・・・」
「おいっ!聞いてんかっ!お前、確実に殺すから・・」
ツー、ツー、ツー・・・
クソッ!
電話は切られた。非常にまずい展開。探す当てはなかったけれど、じっとしてはいられなかった。とりあえず、車に乗り込み発進させた。
すると、しばらくして、みゆちゃんから着信。
「エレジーちゃんと変わって、しばらくしてゴメンとか言って、降ろしてくれたわ。焦ったわ~。(笑)」
「笑い事ちゃうで!下手したら、拉致られて、やられるところやったんやでっ!」
私は笑いながら話すみゆちゃんにホッとしたのと同時に無警戒な事にイラついた。
ダメだ・・みゆちゃんを早く水商売から上げたらなアカン・・・
所詮、水商売は色恋ギリギリのところで男から金を引き出すところがある。きれいに遊べる客ばかりではないので、一歩間違えばという危うさが水商売にはあると思う。
思えば、みゆちゃんと付き合って2年。
たくさんケンカして、罵りあったり、別れそうになったり・・・・ラジバンダリ。
アカン、止められへんかった。(笑)
それでもこうして二人一緒にいる。
「このまま生きてくのしんどいな・・・」
付き合った当初は口を開けばそんな言葉ばかりだった。そして、クスリに走っては気をまぎらわせていた。
でも、いつからか、未来の話を口に出すようになった。
「エレジーちゃんとの子供って、どんな顔してるんやろね。」
私の下積み生活も残すところ後1年。みゆちゃんに、危険な仕事を続けさせるのも限界かなと思っていた。
そろそろ男として、ケジメをつけるべき時期かな・・・
以前、二人で初めて泊まり掛けで旅行に行った場所を、みゆちゃんは気に入っていた。夜景の綺麗な港の側にあるホテル。
「また、行きたいな・・・」
よく言ってたっけな・・
私は“ある決意”を持って、みゆちゃんを誘った。
「えー、行く行く!」
無邪気に答えるみゆちゃん。プロポーズの言葉を考えるのは二度目。男としては一生に一度しか言わないと思っていた。残念ながら一度目は婚約までいったけれど、ダメになってしまった。プロポーズの言葉を一生懸命考えた。
その“言葉”を言うという事は、一生背負う覚悟を持つという事。俺の知らない過去ごと全てを愛すという事。
まだ、その頃は退職金が入る前だったので、消費者金融の借金もあった。だから、給料の3ヶ月分というわけにはいかなかったけれど指輪を用意した。
助手席で無邪気に喜ぶみゆちゃん。
うってかわって、人生のケジメをつける決意を心に秘め、若干緊張していた私。
「いや~、ここ、来たかったんよね~!」
ホテルにチェックインし部屋に入るなりそう言って、無邪気にベッドにダイブするみゆちゃん。
気が強すぎるのが玉に傷だけれど、こういう無邪気なところで許せちゃうんだよなぁ・・・
はしゃいでるみゆちゃんを見ながらしみじみ考えていた。
「エレジーさん!みゆさん、エレジーさんに相当ハマってますよ!」
みゆちゃんを慕っていた後輩ホステスのTちゃんから聞いた話。
私はイエローモンキーの“JAM”を好んでよく歌っていた。そのイエローモンキーのCDを買ってきて、部屋で聞きながらTちゃんに私の話をしていた事があったらしい。みゆちゃんは、普段、プライドの高いツンデレなので、あまり私に好きだとかは言わない。
「へ~、可愛いとこあるんやな。」
そういう意外性があるのも惹かれた理由なのかもしれない。
昼間はレジャー施設で遊び、レストランで夕食を食べた。お酒も飲んでいたけど、緊張の為かほとんど酔わなかった。
レストランを出て、みゆちゃんの好きな夜景が見える港を歩いた。辺りは静かで、海の音しか聞こえない。石の階段みたいなところに二人で座った。
「エレジーちゃん、ありがとね、また、連れてきてくれて。」
二人の間に、沈黙が流れる・・・
聞こえるのは海の音だけ・・・・・
私は並んで座っていた石の階段を一段降りた。そして意を決して言った。
「みゆちゃん!こんな器の小さい俺やけど・・俺・・俺・・・一生2番でエエから!だから・・結婚して下さい!」
指輪と共に跪いて言った。何も言わないみゆちゃん。
私が顔を上げると、声を押し殺していたのか号泣していた。その顔は、涙でグシャグシャになっていた・・・
そして、泣きながら私に言った。
「エレジーちゃん、私より先に死なへん?私置いて、先に死なへん?私一人ぼっちにせーへん?エレジーちゃんは私置いて先に死なないよね?ずっと傍にいてくれる?もう私・・・私・・・一人ぼっちは嫌なんよーーーーーっ!!」
みゆちゃんの問いかけに、一つ一つ「死なへん!」「せーへん!」と首を横に振りながら答える私まで泣けてきた。ずっと感情を押し殺していたのか、最後は号泣しながら叫んでいた。
「俺は、みゆちゃんより先に死なへん!俺はみゆちゃんの死を見届けてから死ぬから!・・・あ、追いかけてすぐ死ぬってわけじゃないで。」
変に正直な性格の私。そこは捕捉なんかせんでエエのに、バカ正直に泣きながら付け加えた。
「バカ!アンタのそういうところよ!言い訳すんな!(笑)」
二人泣きながら笑いあった。そして、とてもとてもとても大事な事。
「みゆちゃんとの子供欲しいからクスリやめよか。」
「うん。」
それから、みゆちゃんはスッパリクスリを止めた。
そして、私とみゆちゃんは結婚した。
あれから20年。
みゆちゃんはいない・・・
そう、今、私の傍にいるのは源氏名のみゆちゃんではなく本名のY美。
生きる希望を失っている人間に、もう一度生きる希望の光を・・これがどれほど大変な事か。でも、こうして二人の子供を授かり、それなりに幸せに暮らしている。
「ホンマ、アンタってエエ加減やわ~!」
「そうよ!そうよ!パパってウザいし、キモいんよ!」
かつてのみゆちゃん、そのコピーロボットのような娘のMちゃん(中2)に、刃先上にしてグッサグサ言葉の刃で刺される日々。
え~と、別に2番でなくてもエエで、5、6番辺りで。
こんな事言うから怒られるんやな。(笑)
でも、マジメな話、私は一つ傷ついていることがある。
みゆちゃんから言われた言葉。
「私、死んだらGのとこ行くから」
なんだよ・・・そしたら、また、俺一人ぼっちなるやん・・・・・
「アンタはメンタル化け物やからな~」って、俺だって傷つくことあるんだからね。
でも、そんなみゆちゃんがたった1度だけ、そう、1度だけ私に言ってくれた言葉。
「エレジー、1番しんどい時、あんたが私の傍にずっとおってくれたから生きてこれた、ありがとう・・・」
あの時の君の声色、息遣い、今でも鮮明に覚えてるよ。
もうこの言葉だけで十分だわ・・・
だって、そんな言葉、君はめったに言わないもんね。
ボクの方こそ、お釣りくるくらい君と出会ってジェットコースターのような楽しい人生を歩む事ができたよ。
2人の愛しい子供たちにも出会えたし。
ボクの方こそありがとう・・・
私がまともに付き合った女性は、桜子と今の妻の2人だけ。
それが多いのか少ないのかわからない。でも、その2人共に自分の人生をかけてもいいと思えるほど愛した。
1人とは成就し、もう1人とは成就しなかった。
1人と成就しなかったから、もう1人と出会えた。
そう考えると、運命というのは、一本の糸で繋がっているんだなあと思う。
長々と私の話を読んで下さった方、ありがとうございました!
2番・・・ エレジー @ereji-
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