第8話 別れの予感・・・最後の緊急事態
人間というのは、欲深い生き物だとつくづく思う。
最初の頃は、みゆちゃんと付き合えるなら、他には何もいらない!なーんて殊勝な事を思っていた。それがどうだ、付き合い期間が1年も経つと、やれ、××を直して欲しいだの、もっと××してくれたら・・なーんて、贅沢な悩みを抱くようになっていた。
それは、みゆちゃんも同じで、自然とケンカも激しく、お互い言いたい事を遠慮なくぶつけ合うようになっていた。
そして、「Gさんの事は絶対に忘れちゃいけない」という自分が言った言葉に苦しめられた。
「Gは、そんなんせーへんかったわ!」
「アンタが言うたやんか、Gの事、忘れたらダメやって!!」
そうケンカの度に言われて、私のおちょこのような器は、あっという間に満杯になっていった。そして、表面張力で持ちこたえていたものが限界に達する。
「そんなん言うたかて、いい思い出のまま亡くなっているGさんに勝てるわけないやんか!」
一度、その言葉を吐いてしまったら、自分自身、制御できなくなってしまった。やはり、私には、みゆちゃんの抱えている事情を包み込める“器”が足りなかったのだろう。
私の持っている小さな器で、表面張力ギリギリで、溢れないよう、あっちいったり、こっちいったりしていた。けれど、少しずつこぼしては、みゆちゃんの事を傷付けていた。
そんなケンカを繰り返していた、ある日。私は言ってはいけない言葉を吐いてしまう。
「アンタなんか、全っっ然わかってくれへんやんかっっ!!」
ケンカして、いつもより強くみゆちゃんに言われた。そして、とうとう表面張力でギリギリ持ちこたえていた私の器から溢れ出てしまった。
「いつまでも悲劇のヒロイン気取ってんちゃうで!お前だけが不幸やないんやでっっ!!」
返す刀で、そう言い返してしまった。みゆちゃんは、しばらく沈黙し、うつむいていた。
言ってしまってから、しまった・・と思った。顔を上げたみゆちゃんの目には、涙が一杯溜まっていた。
キッと憎しみに満ちた目で睨みつけながら、私にこう言った。
「アンタ、それ言うんやな!言うんやな、その言葉!その言葉、私、絶対許さへんからっっ!!」
「あ、いや・・その・・ゴメン・・・」
「私、絶対許さへんからっっ!!」
そう言いながら、みゆちゃんの目に溜まっていた表面張力ギリギリで持ちこたえていた涙が一筋こぼれ落ちた。私は自分の言ってしまった言葉で、みゆちゃんを深く傷付けてしまった事を後悔した。
と同時に、もうこれ以上、自分の器では、みゆちゃんを支えきれない限界を感じてしまった。この気持ちは、みゆちゃんと付き合った当初から根底にずっと感じていた気持ちでもあった。
そして、この言葉を言ってしまったら、すべてが終わるとわかった上で言った。
「みゆちゃん、俺、もう限界かもしれん・・・。俺の器では、みゆちゃんを傷付ける事ばかりしてしまう。だから・・・・別れよう。」
すると、みゆちゃんは、深いため息をついて悲しそうに言った。
「そう・・わかった。・・・・エレジーちゃん、別れる前に、最後にもう一度だけ抱いて。」
私は、つくづく最低だと思った。
え、こんなケンカしたし、別れる言うたから、もう、タイプど真ん中のみゆちゃんとは出来ないと思ってたのに・・・できんの!
こんな事を考えていたのである。今、思い返しても、つくづく最低だなと。まぁ、あの頃は、それしか考えてなかったといっても過言じゃなかった。
そして、心を込めて、みゆちゃんとの最後のセッ×ス。
お互い最後と思ってしたので、いつにも増して情熱的なセッ×スだった。
「あ~あ、エレジーとも最後か・・・」
みゆちゃんが終わって呟いた。
「・・・・・・ゴメン!俺、やっぱ、別れたくない!」
ん~ズリ~わ!(笑)
それからも、ケンカ・・別れる!・・じゃ、最後に・・別れたくない!の繰り返し。というか、俺ら、この一連の流れをプレイにしてない?というくらいだった。
そして、私の決断を早める出来事が起こる。
「エレジーちゃん!お客さんが車から降ろしてくれへん!」
アフターに行った客の車の助手席から、焦っているみゆちゃんの声でSOSの電話が入った。
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