第3話 別れの予感・・・


私も最初は無理して、みゆちゃんの店に一人で行ったりしていた。けれど、給料が住み込みで15万しかなかったので、そんなに余裕はなかった。



そんな私を見かねて、みゆちゃんが店に出勤しない日などに、外で夕食を共にして、その後、飲みに行くという風に気を使ってくれた。



店ではNo.1、2のみゆちゃんが、プライベートで会ってくれる。



それだけでも充分すぎるくらい幸せだった。だが、人間というものは欲深い生き物。だんだんと1ステージ上の欲望を抱きだす。



デートを重ねていくうち、二人の距離はどんどん近くなっていった。



そしてある時、勇気を振り絞り、ダメもとでホテルに誘ってみた。



「エレジーちゃん、何もしない?」



上目遣いで私に問いかけるみゆちゃん。



「も、もちろん、何もせーへんよ。」



はいはい、女子特有のあのセリフね。



と、ホテルに入る理由付けだと思って、入ってしまえば何とかなると高をくくっていた。



ホテルに入り、あの当時、性欲が野獣並みだった私は、みゆちゃんを強引に抱き寄せキスをしようとした。



「ちょ、ちょ、エレジーちゃん、待って!何もしないって言ったやん・・・」



少しがっつき過ぎたかな?と反省し、とりあえずソファーに座った私たち。落ち着いて少し話をしているうちに、沈黙の時間が多くなってきた。



自然とキスをしていた。



みゆちゃんときちんとキスしたのは、これが初めてだった。私が先にシャワーを浴びに行き、その後でみゆちゃんがシャワーを浴びた。



お互いバスローブ姿。



みゆちゃんは改めて見てもスタイルが良かった。特に私は胸の大きな女性がタイプだった。



けれど、それだけで女の子を選んでいたわけではないので、実際に付き合ってきた女性で大きな胸の子はいなかった。



だから、私も興奮が抑えきれず、当然のように襲いかかった。



「ちょ、ちょ、待ってエレジーちゃん。」



この期に及んでは、さすがに社交辞令というか、イヤよイヤよも好きのうちくらいに思っていた。バスローブをはだけて、あらわになった胸の先端に唇を押し付けた。



感じてしまえば、後はどうにかなるだろうと思っていた。



「やめて、本当に、ここまで。やめて・・・」



ここまできても、私を押し退けようとするみゆちゃんの力は本気の嫌がり方だった。何度、試みても変わらなかった。



やっぱり、みゆちゃんの事を本気で好きだったし、過去を知っている手前、傷付けるのは本意ではない。



そのうち諦めた私。



「ごめんね。エレジーちゃん・・・。まだ、心の準備ができてないから・・・」



今までの私は、セックスを拒まれると超不機嫌になっていた。でも、この時は穏やかだった。



後にも先にもホテルに入って、しなかった女性はみゆちゃんだけだった。



その後、踏ん切りがついたのか、前の彼Gさんと住んでいたマンションに別れを告げたみゆちゃん。そして、新しいマンションに私を迎え入れてくれた。



自然と深い関係になり、客として店に行く事もなくなった。その代わり、私の車で店まで送迎するようになっていた。



そして、私が恐れていた“あの出来事”が起こる。



店が終わる時間になり、いつもの道路でみゆちゃんの帰りを待っていた。



「ちょっと!聞いて!聞いて!今日、Gにそっくりなお客さんが来てん!」



助手席に乗り込むやいなや興奮気味に話すみゆちゃん。



「え・・・、あ・・そう・・・」



私は正直、気分がよくなかったし、と同時に終わったと思った。



昔見たドラマ、武田鉄矢さん主演の『101回目のプロポーズ』。浅野温子さん演じるヒロインも、愛する恋人を亡くしているという設定だった。



お世辞にも見てくれの良くない武田鉄矢さん演じる主人公が、浅野温子さんにアタックし続けるというドラマだった。



そして、そのドラマの中で亡くなった恋人そっくりな男性が現れる。



そのドラマは好きで、よく見ていた。



まさか、我が身に現実に起きるとは・・・



ドラマではヒロインが真実の愛に気付き、武田鉄矢と結ばれるというハッピーエンド。



「生き返ったんかと思ったわ!なんか、私の事、気に入ってくれてんねん!その人ね、明日も店に来てくれるって!いや~楽しみ~!」



「あ、そう・・・良かったね・・・」



終わったな・・・勝てっこないやん・・



今まで、いい夢を見させてくれたな・・・



終わりを覚悟した。



私は思春期のある経験から、絶対に女性を追いかけないと決めていた。



そして翌日、別れを告げる覚悟をして、絶望感と共にみゆちゃんを迎えに行った・・・

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