第4話 24時間戦えますか?


運転席で、いつものようにシートを倒し横になり待っていた。無様に抗うよりも、自分から別れを告げた方が傷つかないですむ。



今までの恋愛を通して得た私なりの持論。



待っている間、みゆちゃんとの出会いから今までを回想していた。



付き合う区切りとなったデート。同伴を何度かして、一縷の望みを掛けて勝負に出た。あれは、大阪で毎年ある大きな夏の花火大会。



勇気を出して誘ったっけな~・・・



まだ、その頃は客という立場だったので店が休みの日に誘う。



たぶん、断られるだろうな・・・



若気のイタリアン!



当たって砕けろの精神、ダメ元で誘ったっけな・・・



「いいよ!」



あっさり答えたみゆちゃん。お互い浴衣での花火大会でのデート。



雰囲気と酒の勢いで壁ドンならぬ、どこぞの閉まっている店のシャッターにいきなりドーン。酔いのせいで力加減がおかしくなり、周りの通行人に見られたっけ・・・(笑)



「み、み、みゆちゃん、お、お、俺と付き合ってくれる?」



「い、いいよ・・・。」



あれ半分、威嚇だったよな。(笑)



あんなの断ったら、危害加えられそうだったもんな。



「足痛くなっちゃった・・・」



慣れない草履で歩いていたから、足が痛くなったみゆちゃん。



「ほれっ!」



「エレジーちゃん酔ってるのに大丈夫?」



みゆちゃんの前にしゃがんで、おんぶしたっけな・・・



そして、付き合うようになり、みゆちゃんのマンションに出入りするようになったよな・・・



「エレジーちゃんってね、Gに似てるんよね。」



でも、瓜二つみたいなそっくりな男には勝てないよ・・・



夢のような時間もおしまいか・・・



ガチャ!



みゆちゃんが、いつものようにため息と共に助手席に乗り込んできた。



「お、お疲れっす・・・」



私は恐る恐るみゆちゃんの第一声を待った。



「やっぱ違うかったわ!」



「え・・?」



「いや、じっくり喋ってみたら、Gとは違たわ。やっぱりエレジーちゃんの方がエエわ!」



「やっぱりって、おい!天秤かけとったんかいっ!」



私は悲壮感いっぱいだった先ほどまでのプレッシャーから解放された安心感から、テンションMAXで突っ込んでしまった。



“絶対に忘れたらいけないと思う”



しかしその後も、私は自分がみゆちゃんに発した言葉に苦しめられる事になる。そして、みゆちゃんにはもう1つ秘密があった。



「エレジーちゃん、私たちテンション変じゃなかった?」



花火大会の後、付き合うようになったみゆちゃんが、ある日私にそう尋ねてきた。確かにテンションの上がり方が異常な時がちょいちょいあった。



「私らね、クスリやってんの。」



私は、決してマジメとは言えなかったけれど、薬物関係とは一切接点がなかった。本格的にボクサーとして練習を開始したのが17歳の頃。それまでは、せいぜい酒やタバコ。シンナーなどの薬物には、プロになるという目標があったので興味がなかった。



みゆちゃんは若い頃からシンナーなどの薬物をやっていたらしい。そして、Gさんが亡くなってからは、特に依存がひどくなり覚○剤、大○、マ○ファナなどなど、あらゆる薬物をしていた。現実逃避をしないと精神が持たなかったらしい。



気持ちはわからないでもない。



私はリングに上がる事が麻薬みたいなもの。だからか、そういった類いの事には、まるっきり興味がなかったのだろう。



でも、私はみゆちゃんと本気で結婚を考えていた。こんな理想の女の子と付き合って飽きるようだったら、どの女の子と付き合っても同じだなって思えたからだ。



女性の立場としたら、何ともひどい理由とは思うけれど・・・



「薬物なんかやめろよ!」



そんな事言って簡単には止められない事はわかっていた。



私は、1度、みゆちゃんと落ちるとこまで落ちて、そして、頃合いをみて止めさせようと思った。あの頃は今みたいに簡単に薬物が手に入らない時代。知り合いのヤクザの売人から買っていたみゆちゃん。



ある時なんて、ドラマみたいにどこかの人気のない山道の広場に車を止め、パッシングで合図を出して取引をした事も。



それと“ハルシオン”という睡眠薬も違法に手に入れていた。



「あ、エ、エレジーちゃ~ん、お、おひさ~!」



「何言うてん!昨日、会うてるやん!」



私が仕事終わり、みゆちゃんのマンションに行くと薬物で飛んでいる事が多々あった。そして、私も一緒に追いたしでやる。



そんなただれた日々を過ごしていた。



でも、時には尋常じゃなく呂律がおかしく、目の焦点が交差し酩酊している事もあった。そんな時はだいたい睡眠薬をオーバードースしていた。



「おいっ!どんだけ飲んだんやっ!」



そして、そんな状態で倒れて頭を強打した時もある。



「おいっ!ええかっ!俺の指を目で追えよ!」



ボクサー時代、KO負けした選手にドクターがしていた事を見よう見まねで試したりした事もあった。



もう、生きた心地がしなかった。



きっと、この子は自分もそうされたように、俺の前で死ぬつもりなんだろうなと覚悟していた。なんとか希望を捨てないで生きて欲しい・・・



私が願っていたのは、ただ、その一点だけだった。



自分の事を希望に・・果たして、私にその価値があるだろうか・・・



正直、そんな自信はなかった・・・



沢尻エリカなどの芸能人がたびたび使用して捕まる“エクスタシー”。一度服用すると、24時間、触っているだけで絶頂が味わえる。あんなのを経験してしまうと、普通のセックスが出来なくなると思う。



私も自分が依存症になっては仕方ないと思い、覚○剤は注射器を使用しての血管注入だけは止めていた。あれをすると、本当に廃人になるまで止められないらしい。



みゆちゃんもそれがわかっているのか、血管注入はしてなかった。主に炙りと溶かした液体を飲用していた。



私の普段のスケジュール。



朝6時仕事開始。夕方5時仕事終了。



そこから、みゆちゃんのマンションに行き店がある時は送る。そして、夜12時に迎えに行き、食事やカラオケ、もしくはマンションで過ごし、ほとんど寝ないで朝4時か5時にマンションを出て仕事へ。



寝る時間は?(笑)



24時間戦えますか?



昔、こんなCMあったな~。(笑)



「シャブ食って寝る人、初めて見たわ。」



みゆちゃんにそう言われるくらい、たまにクスリをやっていても寝ていた。そりゃ寝るっちゅうに。(笑)



みゆちゃんは人気があったので、お客さんから携帯にしょっちゅう電話が入っていた。携帯は、客用、プライベート用と2台持っていた。



それと、みゆちゃんは極道の方によく気に入られていた。それもチンピラじゃなく、組長や幹部クラスの人に。



「今日、お客さんとアフター行ってくるから。」



ある日、大阪にある老舗の組の若頭と店終わりにアフターに行くと言われた。



「3時くらいに帰るから。」



みゆちゃんがアフターに行くのは正直おもしろくなかった。百歩譲って同伴は、仕事の範疇だと思えた。しかし、アフターは、それ、お前の趣味も入っとんちゃうんか!って思っていた。だって、そういう私もそうだったから。



私は不機嫌になりながらも了承した。



「先、寝といてエエからね!」



寝られるかっちゅうねん!



カッカして目が冴えてしまった私は、テレビを見ながら待っていた。



2時・・・



3時・・・



3時半・・・



3時45分・・・



お客さんと会っている時は、電話しないで!



みゆちゃんからは、常々、そう釘を刺されていた。



しかし、ヤキモチ焼きの私は我慢の限界だった。



「お客様のおかけになった電話番号は、電波の届かない場所におられるか、電源が入っていないためかかりません。」



一度かけてしまうと、堰を切ったように、かけ続けた。しかし、何度かけても同じアナウンス。



4時・・・



私は、居てもたってもいられず、どこを探していいかもわからなかったけれど、とにかく部屋を飛び出した。

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