13

 Primitive Human保存施設の外は、以前として一面白い雪に覆われている。ドールの話によると、もう何百年も前からここは雪が降りやまないという話だ。

 その雪の中、僕はドールと共に深い眠りについたパウラを運び出す。目指すはここから少し離れた、気高い山も朽ち果てた建物もない真っ白な平地。

 パウラの服の裏にあった小さな通信機が約束の場所がある方を確かな緑色の光線で示す。

 思っていたものとは少し違うけれど、もうじきパウラともお別れだ。


 僕達は一緒には居られない。詳しい話を聞くことは出来なかったけれど、きっと彼女は僕等とは違う道を歩んだ人達の結果の一つなのだ。だから、道から外れたこの星の、僕等のような人とは一緒に居るべきではない。

 約束の場所。

 上空には綺麗な楕円型の機械が浮いている。初めてパウラと出会った時、彼女が乗っていた卵のような乗り物に似ている。通信機から伸びる緑色の光線は、その楕円型の機械に向かって伸びていて、あれがパウラを元の世界へと戻してくれるだろう。

『再度確認出来ました。ニィア・ミィチ。捜索願と一致しました』通信機から聞こえる声。パウラのことを探しているという人。


「…………」


 こんな星に留まったところで彼女の容態が良くなるはずもない。パウラを引き渡すことが、何より彼女のためなのだから。


「パウラさんの記憶は、どうなるのでしょうか」


 パウラは、ここで過ごした記憶を忘れたくはないと言っていた。


『以前にもお話をしましたが、他惑星へ出向くことは我々調査員という職務についている人間以外禁止されています。そのため、今彼女に起こっているであろう時空移動に伴う記憶の錯乱の治療を行ったのち、ここでの記憶を消去することになるでしょう』

「そう、ですか」

『はい。これは我々の規則です』


 そう言葉を述べた調査員を名乗る人は、それから『では、引き渡しをお願いします』と言葉を続ける。

 僕はドールと共に上空に浮かぶ機械の真下へパウラを運ぶ。すると、程なくして暖かな光が真っすぐにパウラの元に下りてきて、彼女はゆったりとその光の袖を通って上空へと旅立って行く。


 別れはいつだって唐突だ。

 旅立って行く彼女を見て、僕は無意識の内に手を伸ばしていた。

 あの時と同じような気がした。

 あの時とは、何だっただろうか。

 パウラが遠退いて行く。

 光の袖が消える。

 渇いた風があの空の向こうへ昇っていく。

 星空と、錆びれた地表。


『ご協力、感謝します』


 音もなく、それは消えて。

 この星は、再び静けさを取り戻した。

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