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 フッと、息継ぎをするみたいに意識が浮上するのが分かった。

 でも、瞼が重くて開けることが出来ない。

 口は動きそうだったから、私は「ネウロ」と彼の名前を呼んだ。すると、すぐ近くに彼がいるのか、「パウラさん」と声が聞こえてきて、それから左手が冷たい何かに触れる。きっと彼の手だと私にはすぐに分かった。


「夢を見ているの」


 自然とそんなことを口にしながらも、でもあれは夢じゃあないのかもしれないと私は思った。私はあの夢を知っている。私は、パウラじゃあないのだ。この星で、ネウロと一緒に色々なところを巡って沢山のものを目にしてきたパウラは私じゃあない。パウラは私にとって大切な妹で、かけがえのない妹で、パウラの話は、唯一私に色を見せてくれるものだった。


「夢じゃあないの」


 これは、私の記憶なのかもしれない。

 これは、かつての私の記憶なのかもしれない。


「パウラさん、これを飲めますか? ドールに教えてもらって取ってきました。直接パウラさんの容態を改善させてくれる訳ではありませんが、それでも幾分か良くなるはずです」

「うん」


 ネウロがそう言うのなら、きっとそうなのだろう。

 私はそれを飲む。


「安静に、きっと大丈夫ですから」

「うん」


 私は「パウラじゃあ、ないの」と口にする。「どういう、意味ですか」とネウロが私に問う。


「私は、パウラじゃあないの」


 パウラは私じゃあない。

 その名前は、こんな風にまだ見ぬ世界を目にすることを心から望んでいた子の名前だ。

 だから、私じゃあない。

 でも、今の私は望んでいる。ネウロと一緒にこの星を巡って、今までのように色々な人と出会って、色々な光景を目にすることを望んでいる。

 それを、ネウロに伝えたい。何度だって伝えたい。


「あなたは、あなたです。僕と一緒にここまで旅をしてきたのはあなたです。僕はまだ覚えています。手放すことなく憶えています」


 私の記憶。

 それは誰のものでもない、私の記憶。


「ありがとう」


 私も、まだ覚えている。

 ネウロと一緒に過ごした私は、まだここにいる。

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