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『改めまして、私はドールと言います。そして、ここはPrimitive Human保存施設と言う特別指定施設です』
八つある建物のうちの一つに招かれた私達は、ドールと名乗るロボットに部屋に案内される。
金属で出来た長机と丸い椅子。たったそれだけしかない、随分と殺風景な部屋。
金属で出来た椅子は冷たくて、正直あまり座り心地は良くない。私の隣にいるネウロはそんなことなど気にも留めず、正面に座るドールに対してここがどんな場所なのかを尋ねるのだった。
「Primitive Human。原初の人。どういう意味でしょうか?」
『言葉の通りです。原初の人というのは、かつてこの星で繁栄していた肉体を持つ人間のことを指します。当施設を簡潔に言い表すのであれば、ここは肉体を持つ人間の保管施設です。当施設は人類史を残すための一手段として設立されました。当施設の役割は、肉体を持つ人間そのものの保存です。再びこの星が肉体を持った人間にとって住みやすい環境になるその時まで、人間を保存するために当施設は存在しています』
淡々とした口調。それが私には少しだけ怖い。ネウロはどうだろうかと私は隣にいる彼に目を向けたけれど、ネウロはただ真っすぐとロボットの方を向いて「保存、というのは具体的にどのようなことをしているのでしょうか」と質問を続けた。
『この施設が出来たばかりの頃、当初は冷凍による人間の保存を行う予定でした。しかし、冷凍保存した人間を長期的に管理し続けることは難しいという結論に至り、別の手段を取ることになりました』
「別の手段、ですか」
『はい。人工的な人間の培養、および養育です。培養した人間の精子と卵子を用い、定期的な人工授精を行い、人間を生み、育てることで元来の人間を保存し続ける。これが本施設の役割です。そして、産まれた人間を育てる役割を担うのが私達ドールシリーズです』
「なるほど。遠くの街に住むNIから、生身の人間からメッセージを聞いたことがあると伺ってここに来たのですが、そういう事だったのですね。ちなみに、今もまだ行われているのですか?」
『いいえ。残念ながら、既に人間を保存し続けるために必要な機能はすべて停止しています。今なお稼働しているドールシリーズは私一機のみです』
淡々と交わるネウロとドールの声。
何だかとても遠くに聞こえる。
ああ、まただ。最近よくある、あの眠気だ。
「分かりました。自己紹介が遅れました。僕はネウロ、そしてこちらがパウラさんです」
私は、うつらうつらとネウロの声に頷く。
「まず、パウラさんのことを……ますか? 僕達は記憶集……ています。ドールさ……知ってい……か?」
ネウロの声が細切れになっていく。
頭が重い。
頭に靄がかかり始める。
「パウラさん? パ……さん? 大丈……ですか?」
私は「大丈夫。ただ少し、眠いだけだから」と、でもそれが言葉になってネウロに伝えられたかは分からない。
「や……り、どこか体…………ですか?」
大丈夫。ただ少し眠いだけ。
だから、そんな顔はしないで。
「だい……じょうぶ」
ネウロの不安そうな表情を最後に、私はプツリと途絶えた。
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