記憶の中
1
大きな星が二つ。
小さな星が沢山。
狭い自室で一人きり。
窓越しに夜空を見上げる。
下の階からは相変わらず怒鳴り声が聞こえて来る。
でも、私の近くにパウラは居ない。
「…………」
私は日記を書くことにした。
今の私が抱いているこの感情が、薬の所為で掻き消されてしまうその前に。
私はまだ諦めてはいない。いつの日か、また「お姉ちゃん」と笑って手を振ってここに戻って来ることを信じている。
両親は相変わらず。むしろ、パウラがあんな風になってしまったことで喧嘩が増えたくらいで、私はパウラが傍に居なくなってしまったから、こうして一人きり、布団を被って夜空を見上げてパウラのことを思う事しか出来ない。
今日で八日目。次に寝て起きた時には九日目。
パウラはあんな風になってしまったのに、不思議なほど私の日常は変わらない。
起きて、学校に行って、勉強して、帰って、布団を被る毎日。
でも、こうして自室に一人でいると、パウラが近くにはいないことにふと気が付いてしまって、それが堪らなく辛かった。
二日後にはまた父と母と一緒にカウンセリングに行く。
薬を貰い、この心の苦しみを取り除きに行く。
医者はカウンセリングを受け薬を飲んでも、一向に辛さや苦しみが改善されないのであれば、元凶となっている記憶自体を取り除くことも考えた方が良いと話していた。きっと、父と母は今そのことで喧嘩をしているのだと思う。「記憶を無くした方が良い」という父の声が時折聞こえて来る。
「私は……」
私は、まだ諦めてはいない。
薬なんて飲まないし、記憶だって私のものだ。
でもきっと、あの両親は記憶を捨てることを選ぶのだろう。
そうなれば、もしかしたら私も記憶を無くしてしまうかもしれない。
それはダメだ。
だから私は手放さないよう、日記に書き留めることにした。
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