10

 一日に一か所。

 予想通り、僕等はおおよそそれくらいのペースで部品を集めて回った。

 部品を求めて街を歩いて回ったことで、ここが改めてNIの為だけに作られた街なのだということを知る。そして、それは僕に元来の人とNIの違いを見せつけるようであった。

 ヒバリから聞いた通り、たとえば食物を育てるための施設だとか、食事を提供するお店だとか、そういった建物はこの街に一切ない。何か体に不調があったら行く場所は病院ではなく整備施設であるし、骸の行く先は大地ではなく溶解炉だ。

 眠ったまま死んでしまったような街。何だかその言葉は、そっくりそのまま僕達に返って来るようで、この街そのものが僕等が辿り着いた果てであるように僕の瞳に映った。


「今日で部品集めは終わりだね」とヒバリが僕のことを見る。


 微かな風に靡く長い白髪。白い肌。水色の透き通った瞳。彼女はまだ、その瞳から涙を流すことだって出来る。

 それが僕と彼女の違い。

 僕と彼女は違う。

 彼女には彼女の居場所がある。

 忘れないように。

 今この日常こそが非日常であることを。

 彼女と一緒に居るべきではないということを。


「そうですね。早く集め終えて、記憶集約所について話を聞かないといけません」


 僕はパウラと一緒にこの部品集め最後の場所へと向かった。

 その場所はヒバリの家から近いところにあって、ドクターの病棟からさらに少し歩いた場所にある。

 ヒバリの家からその場所までは一本道。であるから、その場所までは迷うことなく辿り着くことは事は出来るだろう。


 ただ、気になることが一点だけ。

 これから行く場所で見つけ出す部品が、どうにも機械の体を作り上げるためのものではないようだという点だった。

 これまで部品を集めに向かった場所はすべて整備施設であった。しかし、今向かっている場所だけはどうにも違うらしく、ヒバリからもらった地図上ではその場所がどんな場所なのか名前も分からない。

 一番の問題は、ヒバリがその場所で探して来てほしいというものが具体的にどんなものなのか僕には分からなかったという点だ。

 無論、ヒバリには出かける前に探すものについてどのようなものなのか尋ねてはみたけれど、ヒバリは「大丈夫。行けば見つかるはずさ」と言うばかりで、結局未だに僕はそれが具体的に何なのか分からないでいる。


「あそこかな?」

「そのようですね」


 茶色の壁面。二階建てのようで、窓ガラスが上と下に一つずつ。

 僕の目には、あれは単なるこの住宅街に立つありふれた住居の一つに見えてならない。そして実際のところそのようで、建物の玄関口の方へ近づいてみると、そこにはTodoと書かれた表札が出ていた。

「とにかく入ってみましょう」と、玄関に手をかけようととしたまさにその時だ。

 僕が触れるよりも先に玄関が開き、それから「なんじゃお前ら、なんか用か」という言葉と共にどういう訳かドクターが姿を現す。


「どうしてドクターがここに?」


 思いがけない人の登場に、少しだけ動揺してしまって声が上ずってしまう。


「また不思議なことを。ここはワシの家じゃ。住んでるのじゃからワシが出て来るのは当たり前だろう」僕達とは対照的に、ドクターは何でもないような口調で答える。

「ドクターの住居、ですか」なんて僕が繰り返すと、ドクターは「じゃからそう言っているだろうに」なんて、ため息交じりに言葉を溢すのだった。


「そう、だったんですか」


 どうやら、最後の探し物はドクターの家にあるらしい。

 メッセージ。

 それが僕等が探しているものだった。

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