5

 一つ。この翼を持った新しい体を完成させるのを手伝う事。

 二つ。完成したのなら、私が空を飛ぶところを見届ける事。


 それが、ヒバリが僕等に生身の人間の話と記憶集約所に関する情報を教える代わりに求めたものだった。

 ヒバリの話によると、新しい体を完成させるためにはあと幾つかの部品が必要らしく、僕等にはその部品探しをやってほしいという話だ。


「必要な部品は全部この街にある。一応、それら部品がどこにあるのか目星もついている」


 そう言って、ヒバリは僕にこの街の地図と、ヒバリが必要としている部品のリストデータを送ってくれる。地図とリストを確認してみると、リストに書かれている部品がこの街のどこにあるのか地図上にチェックが入っていた。


「ただ、目星はついているだけで実際にこの部品が目星がついている場所、建物のどこにあるのかは分からないんだ」

「大丈夫です。NIの体を組み立てたことは何度かありますし、こういうのには慣れていますから」


 改めてリストに目を通す。多くはNIの体を構成するために必要となる部品だ。

 ただ、幾つかとはいえリストに書かれている部品の数は決して少なくない。流石に一日ですべての場所を巡って探し出すのは難しそうだ。


「少し時間がかかるかもしれません」

「大丈夫。問題ないよ。嫌じゃなければ私の家に泊ってもらって構わない」

「そんな嫌だなんて、助かります。ありがとうございます」

「うん。それじゃあ、よろしく」


 明日以降の話が決まったその時、ビーという音が部屋に鳴り響いた。


「何の音?」

「ああ、ごめん。すっかり忘れていたよ」


 ヒバリは作業場を出て玄関口の方へと歩いて行く。

「ついてきて」とヒバリの声が聞こえたものだから、僕等もヒバリを追って玄関口の方へと向かった。

 向かう先の玄関口の方からは何やら声が聞こえてくる。

「おい。ヒバリ、帰って来とるんか? おい、帰って来てるなら返事をせんか」という声。おまけに玄関を叩く音まで聞こえて随分と騒がしい。


「多分、ドクターだ」


 そう言ってヒバリが玄関を開けた先にいたのは、灰色の瞳でちょうど僕とパウラの中間くらいの背をした人型のNIだった。


「ったく。帰ってきたら直ぐにワシのところへ来いと言っただろうに。定期健診だ。早くワシの病棟まで……」


 そこまで言葉を発したところで、そのNIの視線が僕とパウラに向けられる。そして「誰じゃ? こいつらは? しかも一人は肉体を持った人間ではないか」と指さすのだった。


「NIの方がネウロ君。生身の体を持っている方がパウラちゃん。二人とはいつもの場所で出会ったんだ。記憶集約所についてと、他に生身の体を持った人間について情報が欲しいっていうから、私に協力してくれたら教えてあげるって約束をした。だから、しばらく二人は私の家で寝泊りをすることになったのさ」


 それから、ヒバリは僕等にこのNIを紹介してくれる。


「こちらはドクター。街に戻る前に話した通り、この街にまだ住み続けている精神を診てくれる医者だ」


 ドクター。ヒバリから聞いていた、この街に住んでいるもう一人のNI。

「初めまして。ネウロと言います」僕は挨拶をする。そんな僕に続いてパウラも名前を名乗って小さくお辞儀をすると、ドクターは「また勝手なことを……」とヒバリの方に視線を変えてぼやくのだった。


「っと、それよりも先に定期健診じゃって。早く来い」


 そう言ってドクターはヒバリの長い足を握って無理やり引っ張り出す。


「ドクターごめん。忘れていた訳じゃあないんだ。自分で歩くから引っ張らないでほしい」


 しかしながら、ドクターはそんなヒバリの言葉を聞き入れるなく足を引っ張って歩き続けるのだった。


「ネウロとパウラ、じゃったか? ついでだ、お前たちも来い。すぐ近くじゃ、ワシの病棟で話をしよう」

「わ、分かりました」


 僕はドクターに圧倒されつつも、パウラと共に後を追った。

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