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 地形データ上で確認出来ていた通り、その街の大きさはこれまで巡ってきた街よりも小さかった。大抵の街や都市には象徴となる様な大きな建造物なんかが中心に建っているものだけれど、この街にはそんな巨大建造物はどこにもないらしい。

 街は円を描いている。ヒバリが話していた通り、多種多様な住居がその円周上に区画整備され綺麗に建ち並んでおり、一定の間隔でNIのための施設らしいドーム型の建物が顔を出す。


「驚きました。まだほとんどの建造物が原型を留めているんですね」


 ここのところ巡ってきた街や都市の場合、そこにある建造物はその大半が朽ち果てていたものだけれど、この街にある建造物のほとんどが未だ朽ち果てずに残り続けている。


「そうさ。私も詳しくは知らないけど、永遠に近い時間を生き続けられる私達に合わせて、特別な作りをしているらしいよ」


 僕等はヒバリの案内の元、街をぐるりと一周し、それから街の中心地へ向かう。その中心地には広場と大きなサイネージがあった。ヒバリによると、たとえば街全体に関わる重要なお知らせがあった時や、定期的に開かれていた催しなんかがあった時は、街中のNIがここに集まっていたという話だ。


「小さな街だし、住んでいたNIもそれほど多かった訳じゃあないから、街の人のことは全員知ってる。だから私にとっては街全体が家族のようなものでね、ここは確かに私の故郷なんだ」


 そう言うヒバリの瞳は、どこか寂しそうに僕には映った。

 そうして中心地を離れて街の端へ。しばらく走ったところで「あれが私の家さ」とヒバリが指さす先に見えるのは、他よりも幾何か背の高い建物だ。

 自動三輪車をヒバリの家の脇に停めて下りる。


「さあ、入って。明日からの話をしよう」


 ヒバリの後に続いて僕とパウラも家に上がる。二階建てかとも思ったけれど、ただ天井が高い一階建ての住居らしい。


「部屋は三部屋。今いるここはリビング」


 リビングにはモノがほとんどない。机と座椅子とモニター、それと小さな本棚があるだけ。

 机と本棚には写真が収まった写真立てがいくつかあって、その写真立ての中には、かつてこの街に住んでいたのであろうNI達との写真が収まっていた。

 そんな写真立てのうちの一つを「これは?」と言ってパウラが指さす。パウラが指さすその写真立てには他の写真と比べると随分と古ぼけた、青空の写真が収まっていた。


「それは私の生まれ故郷の空の写真さ」

「そうなんだ。綺麗」


 パウラのその呟きに、ヒバリは「ありがとう」と優しく返事をする。


「さあ、こっちに来て」


 ヒバリの後を追ってリビングを進み廊下へ。

 廊下を進むと、左右に扉が一つずつ姿を現す。

 ヒバリはまず右の方の扉を開ける。


「ここが寝室」


 ヒバリの言う通り、部屋の中心に大きなベッドが一つあった。


「それで、こっちが作業場さ」


 次にヒバリは左の方の扉を開ける。

 そこは、他の部屋とは毛色が随分と違い、物で溢れかえっていた。

 長机には沢山の小さな部品と分厚い本。大きな本棚には難しそうな書籍がびっしりと詰まっていて、壁には沢山の工具が立てかけられている。


「そして、これが今作っているモノだよ」

「これは」


 そこにあったのは、未完成ながらも翼をもった機械の体だ。


「もしかして、翼のある体に乗り換えるのですか?」

「その通り。これが出来たら、私は体を乗り換えて翼を得るのさ」


 ヒバリはそう言って作りかけの鉄の翼に手を添えるのだった。

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