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 おおよそ落下したであろう場所にまで行ってみると、そこには大きな布のようなものが地面に落ちていた。


「あれかな」

「多分、そうだと思います」


 自動三輪車を近くに止めてその大きな布のすぐ傍まで近寄ってみる。布の下には確かに何かがいるようで、何やらもぞもぞと動いている。


「あの、こんなところで何をしているのですか?」


 試しにそう尋ねると、布がより一層激しく動き、そうしてその下から勢いよく「ぷはぁ」という声を上げて一人のNIが姿を現した。

 黄色い瞳。異様に細長い足。おまけに頭からはアンテナのようなものが一本生えていて、おおよそ人型の体ではあるけれど、ボタンがずれているみたいに人間のそれとは違う体をしている。


「空を飛びたくてね。いや、また失敗だよ」


 そう言葉を口にしたところでそのNIの瞳が僕等を捉えた。捉えると、「って、どうしてこんなところに人がいるんだい」と、先ほどよりも一つ声を高くして瞳を丸くするのだった。


「驚かせてすみません。僕はネウロと言います。それと、こちらがパウラです」


 僕等は記憶集約所を目指して旅をしていること。記憶集約所の情報を集めることと、僕自身の役割を果たすためにNIを求めて街や都市を転々としていること。そして、次の街を目指している道中に、崖の上であなたを見かけ、気になってここまで来たことを説明する。

「名前は、何て言うの?」パウラが足の長いNIに尋ねると、NIは「私はヒバリ。ヒバリっていうんだ」と言って握手を求めるように手を伸ばすものだから、僕等はそれに応じてヒバリと握手を交わした。


「しかし生身の人間なんてまだいたんだ。もしかして、私が知らないだけで本当にまだ元来の人間ってのは細々と生き続けているのかな」

「どうでしょう」


 何だか、ヒバリの言い方がこれまでにもパウラのような生身の人間と出会ったことがあったかのようなものであったから「もしかして、ヒバリさんはこれまでにもパウラのような人間と出会ったことがあるのですか?」と尋ねてみる。するとヒバリは「出会ったことはないよ。でも、話なら聞いたことがある」と答えるのだった。


「本当ですか?」

「本当さ。それと記憶集約所? それがどこにあるのかも、あくまで噂程度の話なら知ってるよ」


 ヒバリは「でもタダでは教えられない」と言葉を続ける。


「何を差し出せばいいのでしょうか」


 僕等が持っているものと言えば、パウラのための飲料水や食料。それから自動三輪車くらいのもので、でもそれをヒバリに差し出してしまったら、僕等は旅が出来なくなってしまう。


「大丈夫。何かモノが欲しい訳じゃあないし、君らに危害が加わるようなことを求める訳じゃあないから」


 ヒバリはただ一言、「私が空を飛ぶのを手伝ってほしいんだ」と僕等に話した。

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