記憶の自由
1
夜空の浮かぶ地下都市を出てからと言うもの、僕等はいくつかの街を訪れ、そこで生きるNIと出会い、記憶を送り、記憶集約所に関する情報を集めて回った。
しかし、一向に有力な手掛かりと言えるような情報を手に入れることは出来ず、街や都市を点々とする日々が続いている。
街から都市へ。都市から街へ。誰かと出会っては別れ、情報と食料を得て日々を過ごす。
記憶集約所を探す、という点ではとても今の状態は順調だとは言えなかったが、それでも良かったことがあるとすれば、パウラが楽しそうにしているところだった。
「次はどんな場所かな」
助手席に座るパウラが車窓の外を眺めながらそう呟く。そんな彼女に「楽しみですか?」と尋ねると、彼女は「うん。楽しみ」と答えるのだった。
そんな僕等は今、次の街を目指してどこまでも続く荒野を走っている。目指している街までは地形データ上だともう少し先だ。
今度こそ記憶集約所に関する何かしらの情報を持っているNIと出会いたいと願いながら、ここ数日はひたすら自動三輪車を走らせていた。
「本当、何もないね」
「そうですね」
荒れ果てた大地と、岩肌が露出した険しい丘。代り映えしない景色がどこまでも続いている。
この荒野をこのままのペースで走り続けたとして、街まではあとどれくらいかかるだろう。食料や飲料には充分余裕があるのが救いだった。
パウラと取り留めのない話を時折しながら淡々と荒野を進んでいく。
そんな中、ふと助手席に座るパウラが「あれ、なんだろう」と、左斜め前にある岩肌が露出した崖の上を指さすのだった。
自動三輪車を止めてパウラが指さす方へと目を向ける。
「NI、でしょうか」
影が見えた。その影の形は少しばかり歪で、人の形というよりは動物のそれに近い。二本の足と、丸い胴体、それから左右に大きく広がる何か。
ここからでは距離があって、あれが動物なのかNIなのかは分かりそうにない。ただ、もしもあれがNIであるのなら会っておきたかった。ただでさえNIとはなかなか出会えないのだから、NIに出会える機会を逃したくはない。
「とりあえず、近くまで行ってみましょうか」
「うん」
自動三輪車のハンドルを切って、影のある崖の方へと向かう。
パウラが「ネウロ、あれ」と、声を上げたのは自動三輪車を走らせてすぐのことだ。
ネウロの視線を辿って見ると、先ほどの影が今まさに崖の先端へ向かって駆けているところで、その影はそのまま勢いよく崖から飛び降り、そのまま翼のようなものを羽ばたかせて空を飛んだのだ。
「ただの鳥、だったのでしょうか」
「でも、何だかフラフラしてるね」
パウラの言う通り、その影が空を飛ぶ様子は随分と不格好だ。
「すぐに落ちちゃいそう」
パウラがそう呟いたまさにその時、空を飛ぶ影は風にでも煽られバランスを崩したのか、地上に向かって真っすぐに落ち始める。
「とにかく、行ってみましょう」
あの影が落ちていく方へ方向を変え、自動三輪車を走らせた。
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