13
「ほら、元通りだ」
翌日。青空を模した天蓋が僕等の頭上に広がる中、ウェーバーはすっかり元通りになった自動三輪車を僕等の前に見せてくれる。
この地下都市に下り、自動三輪車が壊れた時にはどうしようかと途方に暮れたけれど、結果僕等は比較的新しいこの星の地形データも手に入れられたし、当分は困らないくらいの食料と水も手に入れられることが出来た。
「ウェーバーさん、ありがとうございました」
僕が頭を下げると、続くようにパウラも「ありがとう」とお辞儀をする。そんな僕等に対し、「よせよせ、元はと言えば俺が悪かったんだ」と、顔の前で手を振る。
「俺の方こそ、昨日の夜は本当にありがとな」
ミシェルの記憶を記憶集約所に送り届けた後、僕等はあれから地上の土の中にミシェルを埋葬した。その時、ウェーバーはミシェルの腕についていた腕輪を外し持ち帰ったのだが、その腕輪は今彼の右腕につけられている。彼はミシェルの身に着けていたものを持ち帰ることに「はは、やっぱ女々しいな」なんて言ったが、僕はそれを女々しいことだとは思わない。きっとそれは優しさで、彼がどれほど彼女を思っていたのかの証だと思うから。
「いつでも出発できるがどうする? もう行くか?」
「はい。それほどのんびりしてもいられませんから」
「そっか」
時間には限りがある。パウラの為にも、ゆっくりとはしていられない。
僕等は手に入れた食料や水を自動三輪車の荷台に詰め込む。それから、僕等は自動三輪車に乗り込んで、インプットされた地形データを確認し次の向かう場所を決める。
「記憶集約所、たどり着けるといいな」
「はい。ウェーバーさんは、これからどうするのですか?」
「俺か? 俺は変わらんよ。変わらずにこの地下都市で生き続ける。この場所は、あいつと一緒に過ごして来た場所だから。せめてこの場所が朽ちるまで生き続けるさ」
ウェーバーは、「何となくだけどさ、あいつが「生きていた証になるものは何でも残しておきたいの」って言っていた理由というか、気持ちが分かったような気がする。寂しいけどさ、そのおかげで俺は何とかやっていけそうだ」と、腕輪を撫でるのだった。
「本当に優しい人だったのですね」
「そうだな。俺にはもったいないくらいだったよ」
彼はカラッと笑い声を上げるのだった。
「久しぶりに人と話せて楽しかった。お前ら、元気でな!」
「はい。僕達も楽しかったです。ウェーバーさんもお元気で!」
僕は自動三輪車のエンジンを入れる。それから、窓ガラスを開けて助手席に座るパウラと一緒にウェーバーに手を振る。さようならと、手を振る。
大きな地下都市。
外壁を沿うように僕等は地上へと続く螺旋状の道を上る。
「素敵だったね」
「はい」
彼の姿はもう見えない。けれど、彼は明日もまた、この場所でかつての記憶を思いながら生きるだろう。
「ネウロのこと、一つ知ることが出来た。ネウロは、あんな風に誰かの記憶を運んで、これまで生きて来たんだね」
パウラは、「ネウロがやっていること、私はすごく素敵なことだと思う」と、僕を見て微笑む。
「そうでしょうか」
「うん。私はそう思ったよ」
そんなことを言われたのは初めてだ。
少しだけ胸の底がむず痒い。
「僕も、パウラさんのことを一つ知ることが出来ましたよ」
「私のこと?」
「はい」
君はとても涙もろい。そしてその涙はカラフルだ。悲しみも、優しさも、君の涙には溶けている。
そんな涙を流すことが出来る君が、僕は少しだけ羨ましい。
「記憶、取り戻しましょうね」
「うん」
時期に地上だ。
数日過ごした地下都市を振り返る。
あれも記憶の在り方の一つなのかもしれないなと、そんなことを僕は思った。
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