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 一つのビルが崩れ去る様を見届けた後、僕とパウラはウェーバーに案内され、この星を周回する衛星から送られてきた画像や映像を受信しているという大きなパラボラアンテナの元へ向かった。上空は天蓋で覆われているのに、いったいどうやって宇宙からの通信を受け取っているのだろうかと思ってウェーバーに聞いてみると、「詳しいことは俺も知らん。でも、このアンテナと同じようなもんがこの都市の外、ようは地上にあと三つあるらしい。その三つとうまいこと連携して、こいつは地下でも宇宙からデータを受信してるらしいぜ」と、答えてくれた。

 僕なんかよりも何十倍大きいパラボラアンテナ。高さ三メートルくらいはあるだろう。実際に受信したデータは、アンテナのすぐ近くにあるプレハブ内のコンピュータに送られ処理されているという話だ。


 僕等はウェーバーに続いてそのプレハブに足を踏み入れる。

 プレハブの中には大きなディスプレイから何本ものケーブルが伸びていて、ラックにはぎっしりとコンピュータが収まっている。ディスプレイの前にはテーブルとイスが一つ。そのテーブルの上にはキーボードと綺麗に積まれた書籍が埃を被っていた。


「やっぱ電源落ちてるな……入れてみるから、ちょっと待ってろよ」


 ブン、という低い音の後、正面の大きなディスプレイに光が灯る。それからウェーバーは椅子に座ってキーボードをカタカタと叩いてコンピュータを操作し始める。

 彼が操作を初めて少しした後、大きなディスプレイにこの星全体の地形を映した画像が画面いっぱいに表示され、その画像の上にこの星のどこかを映した衛星写真が表示された。


「おっきな、一つの陸なんだね」と、この星の姿を見てパウラが呟く。

「そうですね」


 歪な形をした大きな陸と、陸を囲う海。それが、今のこの星の姿。とても長い時間が過ぎ去ったようにも思えるけれど、宇宙から見れば、この星は全く持ってあの時から変わってはいないらしい。


「ずっと昔、まだここに沢山の人がいた時はこんなんじゃあなかったんだ。大陸は一つじゃあなくて、いくつも分断されていて、他の大陸に行くためには空を飛ぶか海を渡るかしなけりゃいけなかった」


 ウェーバーの言う通り。そして、かつていくつもあった大陸の一つ一つには名前がついていたのだ。そして、さらにその一つ一つの大陸には線が引かれていて、国という単位で区切られていた。

 でも、今大きなディスプレイに映っているのは、大きな一つの大陸と青い海だけだ。地上を区切る線も、人間も、街も、何も映っていはいない。


「やっぱりデータの更新は止まってるみたいだな」


 ウェーバーが言うことには、少なくとも百年以上前から更新されていないらしい。


「ネウロ、どうする?」

「構いません。貴重なデータに変わりはありませんから」

「分かった。じゃあ、取り出すから少しだけ待ってくれ」

「ありがとうございます」


 コンピュータに眠っていた地形データは小さな補助記憶装置に収められていく。

 すべてが小さな装置に収められるまでの間、僕はただひたすらディスプレイ越しにこの星の姿を眺めていた。

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