7
「良い眺めだろう」
僕等はこの都市最も背の高い、衛星からの通信を受信している例のパラボラアンテナがあるという建物の屋上にいた。
「これが、例のパラボラアンテナさ」
屋上の中心。そこにはとても大きな灰色のパラボラアンテナが立っている。
「んで、あれがさっきまで俺達がいた場所だ」
正面左。ウェーバーは僕達が先ほどまで爆薬を仕込んでいた高層建築物を指さす。
「建物を爆破して崩す時は必ずこの場所でやるんだ。爆破に巻き込まれる心配もないし、何より崩れていく様がよく見られるからな」
そう言うウェーバーは両手に直方体の機器を持っている。
「あとはもう、このボタンを押せば終わりさ」
小さなボタンが一つ。あれを押すだけで、あの大きな建物は瓦礫に成り果てる。
彼の横顔を見て、僕はふと彼に尋ねたくなった。
「ウェーバーさん、自分の役割を果たす日々を楽しいと思えますか?」
僕のそう問いかけると、一瞬ウェーバーの瞳が揺れた。それからすぐに、「最初の頃は全く楽しくなかったわ」なんて彼はカラカラと笑った。
「俺、本当は研究者になりたかったんだ。それなりに頑張って、勉強して、でも俺には無理だった。やりたいこと諦めて、思ってもなかった役割を担って、気がつきゃこんな体になっちまったな」
ウェーバーは「でも、今振り返ってみればそこそこ楽しかったって思えるよ」と遠い眼をする。
「ああ。それにな、今だってお前らと会えてそこそこ楽しかったりするんだぜ」
ウェーバーは照れているのを隠す様に鼻のあたりを指で擦る。
「さあさあ、お話もこれまでだ。さっさと爆破して終わらせるぞ。結構な音と風が来るから注意しろよ」
眼下に見えるのは未だ建ち続ける建造物と瓦礫の山。果たしてどちらの方が多いだろうかと、そんなことを考えてしまう。
「3」
頭に浮かぶのは、ついさっきまで目にしていた光景だ。
床一面に散らばった紙切れと本。
古ぼけた機器。
僕等は今、そういった誰かの証を瓦礫の下敷きにしようとしている。
「2」
同じように、もう既に瓦礫に成り果ててしまったあの下には、一体どんなものが眠っているのだろうか。
あの瓦礫の下に、どれほどのものが眠っているのだろうか。
「1」
考えても仕方のないこと。でも、少し物寂しい。
「点火!」
明滅。
遅れて届く爆音と、強風。
崩れ去るのは一瞬だった。先ほどまで確かな形を持って建っていたそれは、あっという間に単なる瓦礫の山に成り果てる
その一連の光景は、寂しくも今のこの星に相応しいと思ってしまう。
もうこの星に新しいものは生まれない。ゆっくりと時間をかけて、一つ一つが瞬く間に崩れながら終わっていくしかない。
この光景も、そういう時間の流れの一時でしかない。
「なんだか悲しい」
パウラはそう呟き、僕を抱き寄せる。
彼女に抱きしめられたまま、僕は前に立つウェーバーを見つめる。
彼は何も言わないまま建物があった場所を見つめている。
まるで、ひっそりと別れを告げるよう。
そんな彼の背中がとてもちっぽけに見えてしまった。
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