ひとりぼっちのドラゴンは待っている

 ドラゴンだったものは、深いまどろみの中にいた。


 子供たちを無慈悲に飲み込み続けた生みの親の巨龍は、ある時腹が満ちたのか気まぐれに元の場所へ戻っていった。


 それから長いながい時が流れ、生みの親の巨龍はあれからずっと眠り続けている。冷えた身体をちいさく丸めて、目覚めることはもうなかった。


 かつて青く輝く美しいドラゴンだったものは、混濁した意識でねむりについた巨龍の周りを漂っていた。


 生みの親の巨龍に飲み込まれてから、ドラゴンは身体が跡形もなく溶けて、暗闇に散り、周りを飛んでいた兄弟たちと混ざり合い、最早ドラゴンと呼べない矮小なものへと成り果てた。


 ドラゴンだったものは、無為に暗闇を漂う。


 思考する力をなくしてしまったドラゴンだったものは、自分が何者であったかを忘れてしまっていた。


 ドラゴンだったものは、たくさんのドラゴンによって構成されている。


 たくさんの兄弟たちが呼びかけていた。


 もう眠ってしまおう。僕らの時代を、ここで終わりにしてしまおう。


 その中で、たった一匹のドラゴンのみが、抗って尻尾を振っていた。


 暗闇の先のずっとその先、青く光る粒を、そのドラゴンのみが感じていた。


 そこから、誰かが呼びかけてくれる気がして、目を離せなかった。


 離せなかったのだ。







 たくさんの散っていたドラゴンが集まってできたものに、真なる終わりの時が来た。


 ドラゴンだったものの体が、少しずつ塵に還っていく。


 そうなれば、ドラゴンだったものは跡形もなく暗闇の世界にすりつぶされて、きっと二度とドラゴンにはなれない。


 それでもドラゴンだったものは青い光に気持ちを寄せていた。


 ドラゴンだったものが生を得た名残りは、もうそれしないのだから。


 思考なき心の奥底で、飢えたように求めるそれの呼びかけにとうとう応えられないまま、ドラゴンだったものは朽ちていく。


 恐れもない、痛みもない、そんな簡素な終わりを迎えてしまう。


 最期の瞬間に、ドラゴンだったものを構成する一匹のドラゴンは、ドラゴンらしく吠えてみようという考えを持った。


 かつて青いドラゴンだったものの響きに呼応し、暗闇の世界に溶けていく、赤き巨龍の子供だったドラゴンの兄弟たちの咆哮。


 それが、ドラゴンだったものの夢の終わりだった。

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