phase3.脆く消える命
講堂を出た先は仄暗い廊下が続いていて、
先ほど自分たちが通ってきた廊下とは思えないくらい不気味だった。
床は先ほど殺されたであろう人の血でべとべとになっている。
血は若干固まり、乾き始めていた。
ニチャッという粘着音を靴底から鳴らしながら二人は恐る恐る歩を進めていく。
両手で固く握っている鉄パイプが小刻みに揺れている。
後ろからは色んな人の嘆きにも似た声が聞こえる。
このまま廊下をまっすぐ歩き、暫くすると教室がある。
そこが新入生、1年のクラスだ。
それにしても廊下が静かすぎる。
電気はいつの間にかすべて消えている。
誰かがブレーカーでも落としたのだろうか。
幸いまだ午前中なので問題なく見える。
それでも、この
「なんでこんなに静かなんだ。」
颯音が疑問に感じたこの違和感。
人がまるでいないかのようなこの何とも言えない
妙な緊張感と悪い予感を感じている。
「そもそもなんで入り口に控えていたのが先生だけなんだ。」
「それは多分、入場の準備の前に会場内の先生と確認を取るために一人できたんじゃないか。」
「なるほど。じゃあまだ一年生は教室ってことだね。」
「多分。急ごう。」
二人は歩を進めた。
いつも歩いている廊下。今はなんだかすごい距離があるように感じた。
途中、ブレーカーがあった。
全てブレーカーは落ちていた。おそらく犯人の仕業だろう。
そして、奥から、かすかに人の声がしたのだ。
声を察知した二人は急いで一年生の教室へ向かう。
すると、一年の教室の前に人がいた。
先生だった。
「こら、お前たち、何してるんだ。そんな物騒な物を持って。」
「いや、あの、さっきあっちで人殺しがあって。」
「それに、俺の弟も入学式に出るんです。だから心配になって……。」
二人は必死に先生に現状を報告した。
先生は驚いた顔をしていたが、すぐ安堵の表情の戻った。
「そうか、そのことなら問題ないぞ。無事を経った今確認した。
生徒には教室から出ないようにして、扉には鍵をするように
指示しているから大丈夫だ。安心してくれ。」
そう言って先生は指を教室に向けて指した。
教室の中には新入生がいた。
そして、その中には総一郎の弟の響也もいた。
総一郎はほっとした表情で響也に手を振る。
「さ、君たちも講堂に一回戻って、待機し……」
「ん? 先生?」
先生はそう言いかけて固まったかのように静止した。
二人は首を傾げて先生を見つめた。
すると。
突然先生が吐血した。
ごぽっという音を立て、赤黒い血を口からだらだらと吐き出した。
二人は目を丸くして体が硬直したまま動けなかった。
「せ、先生!?」
「か、かはっ……」
そして二人に何か液体が飛沫のようにかかった。
先生の腹部にまるで刃物が刺さったかのような貫通裂傷がいつの間にかあり、
鮮血が噴出していた。二人にかかっていたのはその返り血だったのだ。
教室の扉のガラス部分にもマーブル模様のように血がつく。
一瞬生徒達から悲鳴が上がる。
「おいおいおいおい! どうなってんだよ!」
先生が二人の方によろりと倒れ、床に突っ伏した。
床に少しずつ血だまりが出来ていくのを見て、
先生を殺した犯人は目の前にいることを察し、前を向いた。
前にいたのは、白衣を着た男性だった。
手には何も持っていない。
おおよそ凶器と呼べるものを所持していないように見えた。
「こ、こいつが。」
「犯人か!?」
咄嗟に二人は鉄パイプを握りしめ、構えた。
目の前の男性は微動だにせず、こちらをじっと見ている。
そして口を開けた。
「お前たちは分からないか。」
颯音は額から汗を垂らしながら歯を食いしばる。
「は……?」
男性の突然の問いに一瞬だが動揺する。
当然、何も分からない。
「何を、言いたい……。」
総一郎は拍子抜けをしたような表情で返した。
すると、男は右手を前に差し出した。
次の瞬間。
シュッ
何かが二人の間をすり抜けていったような感覚が耳を捉えた。
そして痛覚がする。
二人がそっとその感覚のする方の頬に手を当てた。
手には少量血がついていた。
「えっ……。」
「何……。」
男は何もしていない。
手を差し出しただけだ。
何か武器や凶器を出したわけではない。
「今、一つの命が脆くも、消えた。」
「お前、さっきから何言ってんだ! 頭でもおかしくしたのか。」
総一郎が頬を押さえながら威嚇する。
「他人の生を奪うことで自分の生を感じる。こうもなってしまうとね、人の命が消えた瞬間が一番、生きていると実感できるんでね。」
「いい大人してなにバカみたいなこと言ってんだ。こんなの警察に連絡して……。」
その刹那、総一郎の持っていた鉄パイプが真っ二つに切れた。
ガランガランという大きな音を立てて切れたほうの鉄パイプが床に転がった。
「は……?」
「お前たちの命が消える瞬間も、感じてみたい。」
男性はまた、ゆっくりと右手を前に差し出す。
「あぶねえ! 逃げるぞ!」
颯音は総一郎の手を掴んですぐ横の階段にダッシュして登った。
男性もすぐさま手を階段の方に向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます