phase2.血染めの入学式
「新入生の時は胸躍らせながらこの講堂に入ったけど、在校生からしたら見慣れた景色過ぎて退屈だな。」
「なに当たり前のことをらしいように言ってんの。」
在校生が先に講堂に入場し、パイプ椅子に着席したや否や、
颯音達は気怠そうに話をしている。
「まあ、新入生は今頃、教室でぎこちなく待機してんだろうなあ。」
「ああ。俺の弟もここ受かってさ。出るんだよ。」
「まじ? 何組?」
「2組。
「響也君ねえ、いかにも頭がよさげな雰囲気醸してるというか。」
「いや実際ギリギリでしたよ。」
「え。」
颯音は一瞬拍子抜けした表情をした。
「弟も、奇しくも兄に似たんだな。」
「おい、それは多分悪口ではないか。分からんけど。」
「まあまあ。とりあえず、待ちましょうや。」
そうしてクラシック曲が若干小さい音量で流れている講堂を眺めながら、
入学式の開式を待った。
次第に来賓の方々や新入生の保護者が入場した。
講堂内は女性の香水やら化粧の若干きつい匂いで充満していった。
「なんか、何とも言えないこの独特な……。」
「まあ、しゃあない。」
講堂内にはたくさんの人が入場しているため、かなりざわついている。
さっきまで聞こえていたクラシック曲もかすかにしか聞こえない。
入学式の開会は9時。現在の時刻は8時55分だった。
颯音は待っている間、次第に眠くなっていき、首を振り始めた。
それを見た総一郎はおでこにチョップをして起こした。
「寝てたぞ。」
「まじかい。意識が遠のいたと思ったら。」
「まったく、ガチの徹夜じゃねえか。」
「まあ、まだ3分前だし、仮眠をば……すう。」
そう言って颯音は力ない声で言いかけながら寝落ちした。
呆れた総一郎はギリギリまで寝かせることにし、前を向いて座り直した。
―9時。
入学式の開会時刻だ。
「おい、颯音、入学式始まるぞ。」
「あ、悪い、サンキュー。」
颯音は背筋を伸ばし、椅子に深く腰掛け座り直した。
次第に講堂内は静寂に包まれる。
「それでは、第37回入学式を開会いたします。」
司会の先生が開会を宣言した。
パシャッ、パシャッとカメラのシャッター音が聞こえる。
「それでは、新入生、入場。」
そう言うと、講堂内にさっきよりもボリュームが高めのクラシック音楽が流れた。
颯音と総一郎は講堂の入り口に対して背を向けているため、見れない。
「さあ、新入生のお出ましだ。」
颯音が眠気を覚ましながらつぶやく。
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それから20秒。いや、30秒経っただろうか。
まだ足音が聞こえない。
講堂の扉が開く音もしなかった。
次第にざわつく会場内に颯音と総一郎は後ろを向いた。
「まだ来ないの?」
「先生寝てるのか。」
「お前じゃないんだから。」
総一郎が軽く突っ込んだ。
にしてもおかしい。
今頃緊張でぎこちない歩き方をする新入生がぞろぞろ入ってきているはずだ。
なのに入場の気配がない。
来賓や保護者の方々がざわつき始める。
講堂への視線が一気に集まる。心配の顔を向けながら。
講堂の入り口に向かって数名の先生が歩み寄っていった。
クラシック曲が一時停止し、会場内はざわつき声でいっぱいになった。
講堂の入り口のドアは、まるで重厚に作られているかのように閉じたままである。
先生がなにやら集まって話し合っている。
その後、一人の先生が講堂の入り口に近づく。
様子を見に行くみたいである。
「ま、先生が何とかしてくれるっしょ。」
「そうだな。じゃ、もうひと眠り……。」
「お前なあ……。」
総一郎が颯音にツッコんだ直後のことである。
「きゃあああああ!!!!!」
けたたましい女性の悲鳴が背後から聞こえた。
颯音と総一郎は思わず肩をびくっとさせ、驚嘆の表情でお互い見つめ合った。
そして後ろを振り向く。
恐らく扉を開けた先生だろうか。尻もちをついて床に這いつくばっている。
そして、扉の奥は真っ暗になっていて見えにくい。
電気も一切ついていないみたいだ。
そして、扉の床には血が流れてきていた。
男性職員が咄嗟に近づき、扉を全開にした。
すると、向こう側から扉に寄っかかっていたのだろうか。
一人、講堂へと倒れこんできた。
しかし、容姿は人間と認識するにはあまりにも残酷な姿で、
全身が血まみれ、至る所が裂傷でおおよそ肉塊と表現したほうがよさそうな
新入生の担任の先生と思われる人が死んでいたのだ。
そして、それを見た先生、保護者、生徒が絶叫、悲鳴を上げた。
次第にその叫び声は伝播し、講堂内はパニックに陥った。
颯音と総一郎もその現場を目撃、言葉を失った。
そして総一郎がぽつりとつぶやく。
「響也……響也!!!」
席を勢いよく立ち上がり、総一郎は講堂の入り口に向かおうとした。
それを瞬時に察知した颯音は総一郎の手を掴んだ。
「離せよ! 響也が……危ないかもしれないだろ!」
「でもあれは明らかにおかしいよ! 殺人にしては猟奇的過ぎる!」
「そうはいっても!!!」
「まだ先生を殺した人がいるかもしれない! 無闇に行くのは危険すぎる!」
「それじゃあ新入生は!? 響也はどうなってんだよ! 見過ごせるかよ! 俺は行くからな!」
「おい、待てって!!!」
総一郎は颯音の手を振りほどき、パイプ椅子を乱雑に
飛び越えながら入り口に向かった。
颯音はそんな総一郎の後姿を見て、何もできず立ち尽くす。
その時である。
ドシュっという鈍い音と共に、講堂に何かが飛んできた。
それは講堂入り口から勢いよく飛び出し、空を舞った。
大量の血飛沫をあげて。
そして飛んでいったものは壇上の壁に激突した。
そして落下し、壁にもたれかかるように倒れた。
腹部に大きな穴がぽっかり開いていて、向こうの壁が見えていた。
穴の断面からピンク色の臓器や筋肉組織のようなものが見えていて、
その人は即死であることを意味していた。
恐らく様子を見に行った他の先生だろうか。
総一郎はそれを見て止まった。
颯音は全力で総一郎に駆け寄った。
講堂内はパニックに陥っていた。
皆、立ち上がり狼狽、徘徊、そして外に出る者、嘔吐する者、
出口を求め扉に向かってくる者。
そして校舎側へ戻った者は惨殺されていった。
あたりは血飛沫で真っ赤に染まっていった。
「響也ぁぁぁぁぁ!!!!!」
総一郎が叫んだ。
颯音はそれを黙って見ていた。
そして数秒後、颯音が口を開く。
「行こう、響也君を助けるために。」
「颯音……でもどうやって。」
「これを。」
渡したのは鉄パイプのようなもの。
体育準備室から武器になりそうなものを颯音が準備していた。
「正直人かどうかも怪しいけど、弟君助けないとね。」
「ああ、行こう、ありがとう。」
そして男二人は固く鉄パイプを握りしめ、恐る恐る校舎側へ向かおうとした。
その直後、颯音は後ろから引っ張られる感覚がした。
春千代が颯音の腕をがっしりと掴んでいた。
「ちょっと、どこ行こうとしてるの?」
「春千代、お前はここから動いちゃだめだ、絶対。」
「いや、颯音達はどこ行くの?」
「総一郎の弟助けに行く。」
「なんでそんな無茶しようとしてるの!?」
「やっぱ、見過ごせないから。じゃ、行く。絶対ここから出るなよ。」
「待って!!!」
颯音はゆっくりと春千代の手を取り、掴んでいた手を離した。
春千代の制止をよそに、颯音と総一郎は校舎側へ向かった。
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