第81話 さくらのフルネーム

「あら…!///」

「私、変なこと言ってしまったかしら!///」


 朱里さんは少し驚いたように言う。

 さくらが考え事を始めたので、朱里さんがそれに気付いたのだろう。

 朱里さんの言葉で、さくらもそれに気付き、直ぐに話し始める。


「いっ、いえ……そんな事無いですよ。朱里さん!///」

「私は…、颯太さんの望む格好をするだけです!!//////」


 さくらは朱里さんの言葉より、俺の言葉を選んでくれた。

 でも……


(それなら、俺がさくらに男性に成れと言えば、さくらは男性に成るのだろうか!?)


 今のさくらを無理矢理、男性の姿形にしても、顔つきだけはどうしようも出来ない。

 却って、美少年にする方法が正しいと感じるが、さくらは女性での生活が長い。


 いっそ、男性に成る教育やしつけをすれば別だが、それをするとさくらの心は多分壊れるだろう……

 さくらは女性に成り切って生きる決意をしているのに、俺が余計なことをしては駄目に決まっている!!


(……そう言えば俺って、さくらのフルネームを知らないよな!)

(ペンネームは桜坂さくらで有り、名前はさくらで有るが、名字をまだ教えて貰っていない!?)

(てっ、言うか……俺も、名字をさくらに教えていないな!?)


 少し場の悪い空気状態だが、朱里さんにも俺のフルネームを教えたいし、俺はさくらの名字を聞いて見るべきだと感じた!

 だけどその前に、今の会話を終わりにさせなければ成らない。


「……さくら。俺の好みを受け入れてくれて、ありがとう!///」

「けど、今日の姿も十分可愛いよ!///」

「だけど、前回の方が俺好みだっただけ…!//////」


「あっ、はい……。ありがとうございます。颯太さん!//////」

「普段は別ですけど、好きな人に会う時は好きな人が望む、姿形をするのが彼女の勤めですよね!//////」


 さくらは“はにかんだ”表情で言う。

 朱里さんはさくらの言葉に口を出すこと無く、静かにアイスティーを飲んでいる。


「『うん!』とは、言いにくいけど、そうしてくれると嬉しいな。さくら!」

「今日のさくらも可愛いけど、先月の方がもっと可愛かった…!」


 前回逢った時の姿のさくら姿を、俺は褒める。


「……ありがとうございます。颯太さん//////」


 すると、さくらは顔を真っ赤にして俯く。

 さくらは想像以上に純粋だ!


 そして、俺とさくらの姿を“やれやれ”の表情で見ている朱里さん。

 この原因を作ったのは朱里さんだが……

 俺はここで、先ほどの聞きたかったことを、微笑みながらにさくらに聞く。


「さくら。さくらの名字をまだ知らないのだけど、教えてくれる?」

「俺も名字を教えていなかったから、ついでながらここで教えるよ!」


「あっ、そうでしたね。颯太さん!」

「ずっとお互い、名前で呼び合っていましたので、気付きませんでしたね!!」


 さくらも気付いたように言う。

 別に名字を知らなくても、交際には直接関係ないからだ。


「私の名前は、小松さくらと言います!!」

「でも、普段はさくらで呼んでくださいね♪」


 さくらが微笑みながら言い終えた後。俺も自分の名前をさくらと朱里さんに向けて言う。


「俺の名前は、湯浅颯太と言います!」


 俺が名前を言い終えると、朱里さんは少し驚きながら、俺とさくらに向けて話し掛ける。


「えっ!?」

「あなた達って……本名を知らずにこの一ヶ月間、恋人関係を過ごしてきたの!?」


(まぁ、誰もがそう思うよね)

(でも冷静に考えれば、どうしてお互い先月逢った時に、本名の紹介はしなかったのだろう?)


 出会った時はペンネームで紹介して、途中で名前だけは紹介したけど、名字までは言わなかった。

 朱里さんはきちんと、本名(三宮さんのみや)を教えてくれたのに??

 誰かが……、俺とさくらの本名の設定をし忘れたのか!??


「あっ、はい…」

「まぁ、そんな感じです。朱里さん…///」


 俺は朱里さんに困った笑顔で言う。

 朱里さんは少し呆れた表情をしてから、少し怒った表情と口調で言う!


「普通は出会った時に、プロフィールは根掘り葉掘り聞く物よ!」

「特にネット上の付き合いなんて、何時破綻してもおかしくは無いし、それに有る程度の情報を得ないと、相手の信用なんて出来ないから……」


 朱里さんに厳しいことを言われてしまう!

 俺とさくらは出会いを求めて、小説投稿サイトで活動をしている訳では無いが、結果的に理想の姿形に、出会うことが出来てしまった。


 サイトでのプロフィールを鵜呑みしすぎた、俺とさくらはやっぱり世間知らずなんだろうか!?

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