第43話 お食事処 ほなみ

「さくら。この信号を右折だね?」


 俺はウィンカーを出すタイミングで、さくらに確認をする。


「はい!」

「右折でお願いします。颯太さん!!」

「しばらく走ると、左側にお店が見えてきます!!」


「お食事処“ほなみ”が、朱里さんと二人で良く、お食事を摂っているお店です!」

「そして、颯太さんとは初めてです❤」


 さくらはさっきからずっと、嬉しそうな声で話をしていてくれる。

 此処まで気に入られていると、俺も何だか考え方を改めそうだ。


「朱里さんは自分のお店を持っているのに、ご飯は他所の店で食べるんだ!?」

「後、さくらも朱里さんと良く来る店なんだ!!」


 俺はさくらの言葉を聞き、少し驚いた口調でさくらに返す。


「朱里さんがこの付近に住んで居るのも有りますが、そのお店は朱里さんと知り合いのお店なんです!」


「はい!」

「時々ですが、朱里さんに連れられて、夕食を中心ですが摂っています!」


 そう、笑顔で答えるさくら。


「あっ、そう言う事!」

「朱里さん馴染みの店だから、ほなみさんで食べる訳か!」


「そう言う事です! 颯太さん!!」

「あっ、見えて来ました!!」

「あの白い看板に、照明が付いているお店です!!」


「あっ、あれね。分かった!!」


 近所の定食屋さんと言うべきか、居酒屋さんと言うべきか分からないが、和風のお店が視界に入る。


「駐車場は、お店を少し通り過ぎた所に有ります!」

「朱里さんの車も、其処に停まっているでしょう!!」


 ほなみの店前を少し過ぎると、道路左側に、数台は止められる駐車場が見えてきた。

『ほなみ専用駐車場』と、ご丁寧に立て看板が立っている。

 俺は駐車場にハンドルを切り、車を駐車させる。

 朱里さんの車も、その駐車場に停まっている。


「ありがとうございます。颯太さん!」


 さくらはきちんとお礼を言ってから、助手席のドアを開けて降りる。

 しっかりと教育されている証拠だ!

 さくらの両親は、しっかり者なんだと思いたいが、さくらを一時的に女の子で育てていたからな……


 車のエンジンを切って、俺も車から降りて施錠をする。

 駐車場からお店までの距離は長くは無いが、二人横並びでお店に入る。

 ドアは引き戸に見えたが、きちんと自動ドアだった!!


「いらっしゃいませーー」


 自動ドアが開いて、俺達が店内に入ったと同時に、店のおばちゃんに入店の挨拶をされる。

 “ふくよか”な表情をした、優しそうなおばちゃんだ!


 店内正面は、真ん中に仕切りが付いた、二列横並びの席が有り、右側には厨房が見える。

 其処には、おばちゃんと同じ年代の男性が居る。

 その人が調理担当だろうか?


「こっちよ~~。颯太さん、さくらちゃん!!」


 店の左奥の座敷から、朱里さんが笑顔で手を振りながら、場所を教えてくれる。

 週末のこの時間帯(19時)だが、店内はさほど混では居なかった。

 俺とさくらは、朱里さんの座っている座敷に向かって歩き、座敷に上がり、其処に敷いて有る座布団に、二人とも腰を下ろす。


 朱里さんは崩しながら座っているが、さくらは正座で座る!?

 俺は当然、“あぐら”だが……

 正座で座ったさくらに対して、朱里さんは早速声を掛けた。


「……さくらちゃん!」

「颯太さんが目の前だからと言って、正座じゃ無くても大丈夫だよ……ですよね。颯太さん?」


「あっ、はい…。俺はそんなの全然気にしません!!」


 朱里さんからの問いに対し、俺は直ぐに返事をする。


「えっ、でも……一応、女の子ですから…//////」


 それを恥じらいながら言う、さくら!?


(いや、お前、男だろ!!)


 と、ツッコミを入れたかったが言うまでも無く、お店の人はさくらを女性で見ているに違いない……


「大丈夫だよ。さくらちゃん!」

「女性は正座の時代なんて、とうの昔に終ったし、私も崩して座っているから♪」


 朱里さんは和やかな表情でさくらを説得(?)していたが、恥ずかしがったまま、正座を崩そうとはしない……


(俺からも一言言うか……)

(俺の言う事なら多分聞くだろう……)


 俺はそう、頭の中で思い、さくらに声を掛ける事にした。

 無理に正座をする必要は無い……

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