第42話 朱里さんからのおもてなし

 俺は車内に戻り、車のエンジンを掛けて、エアコンを起動させて、さくらが来るのを運転席で待つ。

 さくらと危ない行為をした時に匂った、あの匂いはもう殆ど感じなかった。


 ……


 車内でしばらく待っていると、朱里さんが器用に、俺に向けて笑顔で手を振りながら、朱里さんの軽自動車が先に、喫茶店駐車場を出て行く。

 これから行くお店の場所は、さくらが知っているそうだし、この時間帯だからお店が混んでいるかも知れない。

 席確保の意味も含めて、朱里さんは先に出発したのだろう。


 車内で待つ事数分……

 電話を終えたさくらが、後部座席の扉では無く、普通に助手席のドアを開く!

 もう、恋人関係だから、遠慮はしないのだろう。

 この辺りはやはり、男性と言うか……まぁ良いや。


「お待たせしました。颯太さん!!


 さくらは明るい表情で、堂々と助手席に座る。

 細かい事は気にしない!

 家族との連絡は、無事に付いたのだろう。


「うん。大丈夫だよ、さくら!」

「じゃあ、シートベルトを締めて貰ったら出発だけど、どう行けば良いの?」


 俺がそう聞くとさくらは、シートベルトを締めながら、俺の返事に答える。


「ちゃんと、呼び捨てで呼んでくれましたね❤」

「颯太さん!!」


 にっこりと笑うさくら!


「あっ……うん//////」


 俺はそれを、恥ずかしそうに返事をする。

 けど、さくらは茶化す発言はせず、場所の説明を和やかな表情で始める。

 冗談を言う子では無いのかな?


「では、場所の説明をします!」

「駐車場から右に曲がって貰って、二つ目の信号を右折して、しばらくすると見えてきます」


「ふん、ふん。成る程!」

「分かった!」

「じゃあ、シートベルトも締め終えたようだし、出発するね!」


「はい。お願いします!」

「颯太さん!!」


 俺はさくらが返事をしてから、アクセルをゆっくりと踏み込んで、車を発進させる。

 さくらの機嫌は完全に治っており、更に今は、さくらから愛情を感じる雰囲気で有った。

 良いムードと本当に言いたいが、さくらのお股には、“ぞうさん”が付いている……

 これが俗に言う、玉にきずだ!?


 喫茶店の駐車場から右折して、国道に出て、しばらくは国道を走る。

 海沿いの道路だが、この時間帯は完全に海は見えない。

 けど、遠く町並みの夜景が見えるので、これも悪くは無い。


 後から聞くより、今、この場で聞いた方が良いと俺は思い、さくらがどの辺りに住んで居るかを、俺は聞いてみる。


「ねぇ、さくらは王乃おうの市の、どの辺りに住んで居るの?」


「私は王乃市の十浜とおはまに住んで居ます!」

「……でも、颯太さんに送って貰うのは、宇野あざの駅まで良いです!」


 車内で見る、さくらの表情は薄暗くて良く分からないが、和やかな表情で答えていてくれる。


「王乃の十浜は流石に分からないけど、宇野なら分かるよ!」

「この道の反対方向を走れば、宇野に行けるよね?」


「はい。そうです!」

「正解です。颯太さん!!」


 さくらは元気な声で答える。


「でも、よければ十浜まで送るよ!」

「電車賃も掛かるでしょ!!」


 俺は善意で、さくらに言ってみるけど……


「大丈夫です。颯太さん!!」

「十浜は国道や主要道から外れていますし、それに家はその駅から近いですから!!」


 さくらは上手に理由を付けて断ってくる。

 さくらは男性だと知っているのに、何故か残念だと感じた!?


「……そうなの?」

「十浜って言う、駅が有るんだ!」


「はい。そうです。颯太さん!」

「今日は十浜駅から電車に乗って、宇野駅からはバスで朱里さんの店に来ました♪」


 そう、さくらは嬉しそうな口調で話す。

 国道を走っていると、先ほどさくらが言っていた、二つ目の信号が見えてきた。

 朱里さんのお店から、これから食事を摂る店までの短い、さくらとのドライブだが、順調に進んでいた。

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