第39話 決断……

「朱里さん…」

「それは、恋人を作る事ですよね……」


 俺がそう答えると、朱里さんは“にっこり”と微笑みながら言う。


「そう、正解よ。颯太さん……」

「さくらちゃんは彼氏を作る事によって、自分を守ろうとした」


「学園内で彼氏を作る事は、ほぼ難しい状態だったらしいからね」

「その辺は分かるよね、颯太さん…。この年頃の子は色々と敏感だから……」


(学園内で同性カップルが誕生したら、絶対持ち切りに成るな……)


「トークアプリやチャットアプリで、さくらちゃんは彼氏候補を探し始めたけど、結果は見ての通り……」

「さくらちゃんは出会うたびに、男性から嫌みや悪口を言われて、彼氏捜しを諦めかけていた……」

「その時に颯太さんが、さくらちゃんの候補に出て来たのよ!」


「……」


 朱里さんが桜坂さんの私事を“ぺらぺら”話しているが、桜坂さんは特に発言はしない。

 その辺の事は話しても、問題ないのか。


「……そうすると、朱里さんは俺の事を有る程度、知っていたのですか?」


「まぁ、さくらちゃんが相談してくるし、私も聞くからね!」

「怪しい人や信用出来る人か……。本当に男性は“行為”しか求めて無いからね!」


 そう、和やかな表情で話す朱里さん。


「……」


(それは男性である以上。仕方が無いような…)


 桜坂さんが最初から『男の娘』と自白していれば、ネット上の繋がりは続けただろうが、逢ったり・逢いに行ったりはしていない……

 男性は自分よりも、優れた異性を自然と求めるのだ!!←あくまで、颯太の持論です。


「そうですか……」


 俺は一応、納得した返事をする。


(さくらさんが朱里さんに相談していたかは別にして、さくらさんはそれだけ追い込まれているのか……)

(言うまでも無く、学園では浮いた存在だろうし、家族にも悪い意味で一目置かれている)

(必死に彼氏を探しているからこそ、俺の“緑の鳥”にダイレクトメッセージを送ってきた)


 俺も桜坂さんとは関係を深めたかったが、年齢差がある事を理由に距離を開けていたが、それを桜坂さん自らが突破してきた。


「颯太さんが、さくらちゃんを親友として見ているのならば、私は親友以上の付き合いをするべきだと思うわ!」

「そうしないと……さくらちゃんは、颯太さんを諦めるしか無くなるから……」


 朱里さんは悲しそうな表情で言う。

 今の選択肢だと、桜坂さんを彼女前提の付き合いをするしか、道が無さそうだ。


(朱里さんがこの場に居なければ、俺と桜坂さんの関係は今日で終っていただろう)

(俺としては複雑なんだが……)


 朱里さんは、俺に言いたい事を言い終えたのだろう。

 桜坂さんの方に再び顔を向ける。


「……ごめんね、さくらちゃん(汗)」

「颯太さんに事情を話しちゃった…///」


 朱里さんは桜坂さんに、頭こそは下げていないが、申し訳なさそうな口調で言う。


「……いえ、朱里さん…」

「私の代弁をしてくれて、却ってありがとうございます//////」


 それを少し嬉しそうに話す、桜坂さん。

 自分の恥部を、躊躇ためらいなく話せる人は少ない。


「私から言える事は言ったわ!」

「後は、颯太さん次第……」

「その言葉は……さくらちゃん自身が聞いてみて!!」


 朱里さんは励ます声を掛けながら、桜坂さんの右肩に手を置く。


「……ありがとうございます。朱里さん…///」


 桜坂さんは朱里さんにお礼を言い終えた後、勇気を得た表情に変わり、俺の方に近付いてくる。


(いよいよ、最後の時が来たか……)


 桜坂さんは再度、俺との関係を求める言葉を言うのだろう。

 俺はこの期に及んでも、正直言って迷っていた。


(初めての彼女が男の娘では、俺の初体験がどうなるのだ……)

(けど、此処で見捨てる訳にはいけないし……)


 答えが決まらないまま、決断の時間が迫っていた……

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