第35話 海景色
『ザパーン、ザパーン、―――』
『ザパーン、ザパーン、―――』
「……」
「……」
二人は無言で海景色を眺めている。
ロマンチックなムードと言えるが、お互いは本当の恋人関係では無い。
桜坂さん目線では、俺を彼氏の目線で見ているが、俺が見る桜坂さんの目線は、彼女では無く大親友目線で有った。
西日が少し強い影響で、桜坂さんの表情が少し
『言葉は交わさなくても、心で繋がっているのです♪』
と、顔に書いて有るようにも見えた。
もう、桜坂さんを根掘り葉掘りと聞く行為は、するべきでは無いと感じたので、俺も無言で海景色を眺めている。
今、聞こえるのは波しぶきの音。車やトラックの通過音。そして時々聞こえる、鳥の鳴き声ぐらいで有った。
……
五分ぐらい、お互い無言で海景色を眺めていたが、日が完全に沈むらしく、辺りが少しずつ暗くなり始めた。
時間は18時台だが、海風で肌寒くなり始めたし、そろそろ潮時かなと俺は感じる。
「さくらさん……そろそろ、車に戻ろうか?」
「……」
俺はそう声を掛けるが、桜坂さんは無言だった……
「あの、さくらさん……」
俺はもう一度、桜坂さんに声を掛けると、少し間を置いてこちらに顔を振り向けるが、凄く悲しそうな表情をしていた……。名残惜しそうな口調で話し始める。
「……なんか、寂しいですね!」
「短い時間で此処まで発展出来たのに、もうお別れなんて……」
「出来るで有れば……ずっと、颯太さんと側に居たいです…///」
桜坂さんは、寂しそうな笑顔で言う……
お互い告白なんてしていないのに、完全に俺の事を彼氏で見ていた。
(これがリアル女性だったら、俺も同じ気持ちだが……あくまでさくらさんは男性だ)
(俺の中では寂しいの言葉より、今後の関係をどうするかで頭が一杯だ……)
桜坂さんとは一期一会の関係では無くなったので、しばらくの間はこの関係が続くのだろう……
だが、何処まで関係を続けて良いのか、桜坂さんを何処まで、幸せにするべきかの線引きが、まだ全然出来ていない。
(ここは、少し嘘を交えて、さくらさんを安心させよう……)
「俺だって……さくらさんと別れるのは寂しいけど、さくらさんは高校生だし、家族と共に暮らしている」
「それに俺の事はまだ、家族には言っていないよね…?」
「……はい。言える訳が有りません。颯太さん!」
「年上の男性に会いに行きます何て言いましたら、両親や兄弟から絶対反対されます……」
完全に元気が無い、口調で言う桜坂さん……
安心させるどころか、却って不安にさせてしまった。
「俺ももう少し、さくらさんと居たいけど、日も暮れてしまうし、余り遅く成るとさくらさんの家族も心配するから……」
「颯太さんの言いたい事も分かります……」
「私は颯太さんの事を気に入りましたが、颯太さんは其処まで、私の事を求めてはいませんよね……」
絶望的な表情をしながら話す、桜坂さん……
(不味いな…。勘づかれていたか!)
(さくらさんの顔つきや性格は俺も大好きだが、性別が男性なのは……)
「……分かりました。戻りましょう」
「両親にも迷惑は掛けたくは無いし、颯太さんを困らせても仕方有りませんから……」
俺が返事をする前に、桜坂さんは諦めた表情で言い、立ち上がる……
嘘でも良かったから、“好き”と言うべきだったか……
「では、車に戻りましょう…。さくらさん……」
「……はい」
桜坂さんは元気の無い返事をして歩き始める。
砂浜から喫茶店駐車場に戻る道中、手を繋ぎましょうと桜坂さんは言わなかったし、会話も殆ど無かった……
(この後は、さくらさんを自宅付近まで送れば、オフ会は完全に終わるけど、今の状態では次回の約束を作る事は出来ないな……)
(もっとゆっくりな展開で進めば、俺も男の娘で有るさくらさんの事を、もっと真剣に考えるが、余りにも性急過ぎた!)
(俺は確認のつもりで、さくらさんの身体を触ったが、さくらさんは性的に求められたと感じて……一気に心を許したのかな?)
(今更こんな事を言っては駄目だが、俺はさくらさんをどうしたいのだろうか……)
大喧嘩をしたカップルのような雰囲気で、俺と桜坂さんは喫茶店駐車場に戻った。
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