第34話 一息をつく

『ウォン、ウォン、―――』


 車内はエアコンを掛けているとはいえ、先ほどの行為で、車内には何とも言えない匂いが充満している気がする……

 はっきり言って、良い匂いでは無い。


「さくらさん…。気分転換に一度外に出ようか!」


 俺は車内の換気と気分転換を兼ねて、桜坂さんと外に出る事を提案する。


「……そうですね!」

「私も……外の空気に当たりたい気分です!」


 桜坂さんは微笑みながら言う。

 お互い、それぞれの後部座席を空けて外に出る。


 俺は空を見上げると完全に夕焼け空で有り、まもなく一日が終わろうとしていた。

 俺と桜坂さんは、一時間ぐらい車内で過ごしたが、その間に朱里さんが店外に出て来る事は無かった。


「閉店作業って、結構大変なんだな……」


 朱里さんのだと思われる、軽自動車を見ながら俺は呟く。

 朱里さんの車はピンク色塗装の、丸っこい形の軽自動車だ。

 朱里さんの雰囲気的に、可愛い物系が好きな女性かも知れない。


「颯太さん!」

「折角、外に出たのですから、少し歩きませんか♪」


 俺は車外の空気を吸って、それで終わりにしようと思っていたが、桜坂さんから穏やか表情で声を掛けられた。

 目の前には海景色が見えるし、まだ日は完全には沈んでないから、少し程度なら良いかと俺は感じる。


「良いよ。さくらさん!」

「歩こうか!!」


 この喫茶店の駐車場は、駐車場を封鎖するポール等は設置されていない。

 朱里さんが外に出て来た時に俺の車に気付いても、特に連絡などをする事無く帰って行くだろう。


 俺は車から離れる為、エンジンを切りドアロックもする。

 ロックをすると同時に、桜坂さんが弾んだ声を掛けてくる。


「じゃあ、行きましょう♪」

「はい!!」


 桜坂さんは笑顔で、右手を差し出してきた。

 俺の手を求めている……


 俺は一瞬悩んだが、手を繋ぐのを拒否する訳には行かないので、仕方なく左手で桜坂さんの右手を掴む。


「♪」


 俺が手を繋ぐと、更に嬉しそうな表情をする桜坂さん。

 完全に俺の事を気に入ってしまった……

 俺と桜坂さんは手を繋ぎながら、喫茶店駐車場から道路の方に向かう。


『グォン、グァン、ブォン、―――』


 週末の夕方だが、地方国道の割には交通量が多い気がする。

 時間的に、夕方ラッシュ時だからだろうか?


 この付近の道路は、海岸を沿うように道路が作られているから景観も良い。

 今度桜坂さんと、この道路のドライブをするのも悪くは無いだろう。

 てっ……俺も、結構気に入って居るんだな。


 俺は行き先を特に聞かず、桜坂さん向かう方向に手を離さず付いて行く。

 桜坂さんは、国道歩道左側を少し歩き始めると、急に立ち止まり声を掛けてくる。


「颯太さん!」

「今から、道路を渡りますが、横断歩道は近くに有りません!!」


「道路を渡り、彼処に見える階段を降りて、そこに有る砂浜に向かいます!」

「ですので、その間は一人で行動しましょう♪」


 俺は桜坂さんの説明を聞きながら、道路左向こう側に見える、砂浜に降りられる階段を確認する。


「分かった!!」


 俺は返事をして、握っていた手を離す。

 俺と桜坂さんは車の居ないタイミングで道路を横切り、階段も狭いので一人ずつ階段を降りて行き、規模はかなり小さいが、砂浜に二人は到着する。


『ザパーン、ザパーン♪』


 風もそう強くないので、波しぶきも穏やかの方に入る。

 俺は右側の方に顔を向けると、空はあかね色に染まっていた……


「颯太さん!」

「あそこに、丁度手頃な岩が有ります!!」

「少しですが、海景色を楽しみましょう♪」


 桜坂さんは和やかな表情で言う。


「少しは、観光もしておかないとな!!」

「…さくらさんも、海は好きなの!」


「はい!」

「好きと言うか、海を見ると心が落ち着きます♪」


 笑顔で答える桜坂さん。

 俺と桜坂さんは岩場に腰を下ろし、日の入り間近の海景色を眺め始めた。

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