第16話 男の娘をする理由
桜坂さんが話し始めようとしたタイミングで、朱里さんが注文した料理などを持って来た。
「はい。お待たせ~~♪」
朱里さんは笑顔でそう言いながら、飲み物、サンドイッチ、フライドポテトを配膳していく。
「サンドイッチとフライドポテトは少し、おまけをして置いたわ♪」
「さくらちゃん。ケーキも今持ってくる?」
「ありがとうございます。あっ、ケーキですか…」
「朱里さん。ケーキはしばらく後で!」
「その方が良いよね♪」
「サンドイッチ食べながら、ケーキを食べる人も少ないでしょうから♪」
「じゃあ、追加の注文やケーキが欲しい時はベルで呼んでね!」
この喫茶店はテーブルに置いて有る、呼び鈴で普段はスタッフを呼ぶ感じだ。
「じゃあ、ごゆっくりと、楽しい時間を過ごしてね♪」
「お二人さん!」
朱里さんは和やかな表情で、テーブルから店の奥に戻って行ったが、朱里さんも桜坂さんが男性なのは知っているよね。多分……
「鳥海さん!」
「お料理も来た事ですし、お料理を摘まみながらお話ししましょうか!!」
「ですね。桜坂さん!」
俺と桜坂さんはそれぞれ飲み物に口を付けて、俺はフライドポテト、桜坂さんはクラブサンドイッチの一個を摘まんで食べる。
(うん!)
(揚げたてのポテトだ!!)
(塩加減も丁度良い!!)
俺は頭の中で感想を言いつつ、フライドポテトをしばらく摘まみながら、桜坂さんの方を窺う。
桜坂さんは女性らしい食べ方で、サンドイッチを食べていた。
(仕草も女性そのままだな)
(俺がサンドイッチを食べる時は、2~3口で一個を食べているが…)
桜坂さんがサンドイッチを1個食べ終えたタイミングで、桜坂さんが俺に声を掛ける。
「では、鳥海さん!」
「私の事をお話ししますね!!」
「うん……」
和やかな表情で言う桜坂さん。
俺はアイスコーヒーを飲みながら返事をした。
……
「私が物心ついた時には、既に女の子の格好をしていました」
「私には兄と妹が居ますが、それぞれ年が開いています」
「私の両親は、どうしても女の子が欲しくらしくて、それを望んでいました」
「一人目の子は跡継ぎの役目も含めて、男の子でも納得していたですが、私が出来るまで間、子宝に恵まれる事は有りませんでした……」
「……」
桜坂さんは、今までの出来事を思い出すように、少し真面目な表情で話している。
俺はそれを真剣に聞く為、無駄な相づちはしない。
「かなりの年数が経った時。両親の間に子どもが出来て、それが私でした」
「両親は女の子だと期待しながら、私の誕生を待ったそうですが、結果は残念な結果でした…」
(良くある話しだ!)
(男を望む家には女の子ばかり生まれて、女を望む家には男の子ばかり生まれる)
「そして……私の場合は先天性の問題が有って、かなり女性に近い男の子だったそうです」
「普通の両親なら落胆しますが、私の両親は却ってそれを好都合と考えました」
『このまま、女の子として育ててしまえと……』
「そして、私は男の子なのに、さくらと名付けられました……」
ここが、桜坂さんの中では重要な部分なんだろう。
声のトーンを著しく落とした……
「……」
(そんな親居るの!?)
(けど、桜坂さんの性格からして、嘘や冗談を言う人では無い)
(桜坂さんの両親は、頭のネジがぶっ飛んでいるな…)
「その所為で、本当の妹が生まれるまでは、親から精神・心理的な性(ジェンダー)の影響を受けて、女の子での生活をさせられました」
「運が良いのか悪いのか分かりませんが、私の通わされた幼稚園は性の多様化を凄く意識している幼稚園で有って、私がスカートを穿いていても咎められませんでしたし、女子トイレに入っても平気でした」
「その影響も有って、私は“おちんちん”の付いた女の子でした!」
(おちんちんの付いた女の子か…)
(これが、桜坂さんが男の娘に成った理由か)
此処までは比較的、穏やかな表情で話していた桜坂さんだが、此処で顔を一気に険しくさせた。
(きっと此処からが、本題に入るのだろう…)
俺はそう思いながら、静かに桜坂さんを見つめていた。
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