第17話 桜坂さんの葛藤

「でも、此処で急変します!」

「両親の元に、本当の女の子いもうとが生まれたからです!」


「妹が生まれてからは、両親は妹べったりに成って、妹を溺愛し始めました」

「兄と私よりも、妹です!!」

「待望の女の子が生まれたから、仕方ないのかと感じて居ましたが……ある日突然、両親からこう言われました!!」


 今までの控えめな口調から、興奮した口調に変わった桜坂さん。

 自分の中でも感情を抑えられないのだろう。


『さくら…』

『妹ちゃんも問題無さそうだし、さくらはこの先、男の子に戻りなさい!!』

『その方が、さくらの為だ…』


『!!!』


「私は本当にこう成りました!」

「両親の勝手で女の子にされて、また勝手に本来の男の子に戻される!!」

「余りにも理不尽すぎました!!」


(良くこんな重い話しを、初めて顔を合わせた人に話すな…)

(俺なら、絶対に出来ないよ……。俺はそれだけ信用されている?)


 俺は静かにアイスコーヒーを飲みながら、桜坂さんが男の娘の理由を聞いた。


「私の通っていた小学校も、性の多様性を意識していましたので問題は無かったのですが、女の子から急に男の子に戻るのは幾ら何でも、私の学校生活に与える影響は計り知れないです!」


(そりゃあ、そうだ!)

(先週まで女子だった桜坂さんが、翌週に成ったら男子に成っていたでは、クラスの連中は仰天だけでは済まないだろう!)


「……鳥海さんですから、察しは付きますよね!」


「うん、桜坂さん。急に姿形が変わったら、クラスの子はびっくりするよね」


「はい。その通りです!」

「急に男の子に戻れと言われて私は『はい!』とは言えません」

「私は当然、反対しました!」


『私の今後の生活はどうなるの!?』と、泣きながら両親に訴えました!


「そして両親は悩んだ末、当時住んでいた家が賃貸だった為、引っ越しを兼ねて、私を他地域の小学校に転校させました」

「今までの小学校では女の子で過ごし、引っ越し後の小学校からは男の子で過ごしました」


「……言うまでも有りませんが、それまでの友達は全て失い、連絡先も親が隠しました」

「昔の友達の中には、引っ越し先の家を調べて、遊びに来てくれた子が居ましたが、両親からの命令で、私は絶対に外に出せてくれませんでした…」


『男の“さくら”が出ると、ややこしくなるし、近所にも悪い噂が立てられると…』


(大した親だ)

(そんな面倒くさい事を何でした!)


「それからしばらくの期間は、男の子で生活をしていたのですが、二次性徴を迎えた時、私は女性ホルモンの分泌が強い影響で、更に女性の姿に近付いてしまいました」

「その所為と其処から、苛めに近い行為を受けるように成り、疎外感を感じるように成りました」


「両親にも勿論相談しましたが、ホルモン治療もお金が掛かる事から、両親は消極的でしたし、兄はその時から私を見る目つきが変わり、変わり者目線で見られるように成りました」

「妹も距離を急激に広げました。私はその時、居場所を失いました……」


(聞いていて、辛い話しだ……)

(こんな事が現実に存在するなんて、小説の世界でも無いぞ…)


「苛めに関しては、流石に両親が学校に相談して、学校側も苛め調査をしましたが、やはりと言うか、私の容姿がおかしいと結論づけられて、有耶無耶に終わりました」

「暴力は受けてはいませんでしたが、学年やクラスの目線は、私を珍しい生き物の目線で見るように成りました」


「変な所で教育熱心な両親は、学校を休む事を殆ど許してくれず、辛い中学校生活を過ごしました」

「あの時は、本当に死ぬ事も考えました」


「両親の都合で、女の子として生活をさせられ、ある日急に男に戻れと言われる」

「そして、私が女性らしい姿に成っても、両親は根本的な解決はしてくれない……」

「私の人生はなんなの!?」


 桜坂さんが、涙を滲ませながら訴える!


(こんな話し、普通の人なら逃げ出すよ!)

(でも、今は女装を受け入れているという事は、何処かで転機が有ったのだな)


「……すいません。鳥海さん」

「オフ会でこんな話をしてしまって…」


「うっ、ううん…。桜坂さんの辛さが凄く分かるよ(汗)」

「そうすると、その辺りで小説を書こうと思ったの?」


「いえ、小説はまだ先です…」

「死ぬのを考えているのに、小説投稿何て出来ませんから…」


 しょぼくれた声で言う桜坂さん。


「あっ、まぁ、そうだね…(汗)」


「私は悩みました…。この先の人生や生き方を……」

「悩んだ末、私は一つの選択を取りました!」


(その選択をして、今の桜坂さんが存在する訳か)


 俺の頭の中で既に答えは出ていたが、桜坂さんがその言葉を発するのも待った……


 ……

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