第9話:人生の転機

島左近清興、現在我等はリスカルド伯爵邸にいる。元々はドレイクとレイナの書状を渡して王都を去る予定だったが呼び止められ、ここにいる。しかもレイナの両親であるフライシス伯爵とフライシス伯爵夫人がリスカルド伯爵邸にいる。なぜかって実の息子と娘の様子を知りたいからだ。リスカルド伯爵とリスカルド伯爵夫人、フライシス伯爵とフライシス伯爵夫人がドレイクとレイナの書状を読んでいた。読み終わった後、我等の方を向いた


「息子が迷惑をかけた。」


「申し訳ありません。」


リスカルド伯爵とリスカルド伯爵夫人は我等に頭を下げた。さすがに伯爵家の当主と夫人が頭を下げるのは流石に不味い


「どうか頭を上げてください。もう過ぎたことにございます。」


「我等からも申し訳ない。二人の独断で任務に支障を来してしまった。」


「娘が申し訳ありません。」


フライシス伯爵とフライシス伯爵夫人も頭を下げた。自尊心の高いドレイクとレイナとは違い、事の重大さを理解しているようだ。するとフライシス伯爵が激昂した


「私は反対だったんだ!そのような危険な任務を我等に相談もなく勝手に行いおって!おまけに護衛の兵も連れずに!」


「フライシス殿の言う通りだ、此度は無謀すぎる!」


どうやらドレイクとレイナは両親に無断で此度の任務に志願したらしい。おいおい何やってんだよ。すると再び俺の方を向き・・・・


「サコン殿、貴殿から見て倅とレイナ嬢はどうであったか。」


「それはどういう意味でございましょうか?」


「両名の武名はこの王都にも届いている。二人から見てドレイクとレイナ嬢はどう見たんだ。あの二人は此度が初陣と言っても等しいものだ。ありのままを話してくれ。」


どうやら二人が活躍したか聞きたいようだ。親としては活躍してくれることを祈っているがワシから見た二人は世間知らずの童でしかない。流石にレイナが賊の慰み物にされたことは黙っておこう


「不躾ながら申し上げます。ドレイク・レイナ両名の剣術は並々ならぬ腕前を持ち、賊相手に奮戦いたしました。惜しむらくば両名はひたすら正々堂々と戦う事を拘り、それゆえ賊の奇襲によって不覚を取り、負傷いたした次第にございます。」


ワシの報告を聞いた両家の当主と夫人たちは何とも言えないほど複雑な表情をしていた


「そうか・・・・あやつらには早すぎたか。」


開口一番にリスカルド伯爵が二人の未熟さを嘆いた。それぞれの両親に無断で志願した結果、負傷し任務を降りざるおえない状況を作ってしまったのだから・・・・


「よくぞ申してくれた。改めて礼を言おう、何か所望することがあれば申してみよ。」


「ははっ!ではドレイク殿とレイナ嬢の事をお許し願えませんでしょうか?」


「何?」


ワシの願いにリスカルド伯爵だけでは伯爵夫人、フランシス伯爵や伯爵夫人も意表を突かれたように驚いた


「ワケを聞かせよ。」


「ははっ!此度の事で二人は自分たちの未熟さを自覚しました。それゆえあの二人に今一度、機会を与えてくださらぬでしょうか。」


ワシは頭を下げると同時に、与一も頭を下げた。一方、伯爵らは迷っていた。本当だったらあの二人は勘当されても可笑しくない程の事を仕出かしたのだ。だが目の前にいるこの両名は再び機会を与えてほしいと願う、迷いに迷った末・・・・


「サコン殿の願い、聞き入れよう。」


「誠にございますか!」


「ああ、だが一旦はあの二人を蟄居謹慎せねばならぬ。何もなしでは示しがつかぬからな。」


「できれば二人一緒にいさせてはもらえませぬか。」


「それはなぜ。」


「はい、此度の事を教訓に二人は切磋琢磨し、更に己を高めることができます。そのために二人一緒にいさせたいのでございます。」


「フランシス伯爵は如何か?」


「私は依存はない。」


「分かった。二人一緒に蟄居謹慎処分としよう。」


「ははっ!有り難き幸せ!」


「ところで話は変わるが、泊まるところはあるのか?」


「役目を終えましたので、このまま王都を去ろうと思っておりましたが・・・・」


「うむ、なれば我が屋敷に逗留されるとよい。」


「有り難き仰せにございますが我等は礼儀も知らぬ武骨者にて御屋敷の方々に御迷惑をお掛け致します。思し召しは有難いですが我等は辞退致します。」


「遠慮する必要はない。私としても是非、御二方の武勇伝をお聞きしたい。」


「はぁ~、与一、如何いたす。」


「左近様の御意のままに。」


「そうか、分かった。それなら一泊の宿をお借りしとうございます。」


「一泊で良いのか?」


「はい。」


「そうか、分かった。」


ワシと与一はリスカルド伯爵の勧めで屋敷に一泊する事になった。フライシス伯爵家からも逗留の誘いがあったが長居するつもりはなかったので丁重に断ることにした。その後、我等二人は夕食に誘われた。伯爵家の用意する南蛮風の料理の品々にワシも与一も困惑したが、せっかく用意してくれた料理を断るのも悪いと思い、食する事にした


「ところでサコン殿の武術の腕、どこで学ばれたのだ。」


「ははっ、某の武術は自己流にござる。」


「何と自己流とな。」


「はい(現世にいた頃は師はいたが、この異世界には存在しておらぬからな。)」


「ふむ、師から学び強くなった者のいれば、自ら編み出し強くなった者もいる。世の中は分からぬものだな。」


「畏れ入ります。」


「サコン殿、もし仕官の望みがあるなら、私が口添えをしようか?」


「畏れながら、某は生来から放浪の悪癖があり、鳥のように一つの枝に留まるわけではございません。大変有り難い仰せにございますが、謹んでご辞退申し上げます。」


「そうか、それは残念だ。ヨイチ殿はどうか?」


「はあ~、某も左近様同様、鳥のように自由に羽ばたくことが性に合っておりますゆえ、ご辞退申し上げまする。」


「そうか。見事に降られてしもうたな。ハハハハハハ。」


それから我等は風呂に入り、屋敷の一室を借り、就寝することになった。しかし問題が発生した


「サコン様、ヨイチ様。」


「・・・何をしに参ったのだ?」


「はい、御夜伽(およとぎ)に参りました。」


ワシらの前に、寝巻を着た若く美しいメイドたちが現れ、ワシと与一に夜伽の世話をするようリスカルド伯爵に命じられたらしい。据え膳食わぬは男の恥というが流石にこれはマズイ。ワシと与一は断ることにした


「すまぬが夜伽は遠慮いたす。」


「で、ですが。」


「御厚意、大変有り難いが長旅で疲れておるとリスカルド公に申し上げてくれ。」


「は、はい。」


その後、何事もなく就寝した。明朝になり、ワシらは起床し身支度を整え、朝餉(あさげ)を取った後、足早に屋敷を出ることにした。見送りを遠慮し、ワシらは王都を立ち去った。その道中、メイドの夜伽の事の話をした


「左近様、今にして思えば夜伽の件、若干後悔しております。」


「奇遇だな。ワシもだ。」


「実は某、レイナ嬢の裸を見ていましたので・・・・」


「お主だけではない、ワシもレイナ嬢の裸を見た、ドットも照れ臭そうにしつつも見て居ったからな。」


「流石にドレイク殿に会うのも不味いですな。」


「そうだな、【トオノ】には寄らずに行こう。」


その後、ドレイクとレイナは両家が共有する別荘地にて一緒に蟄居謹慎処分を受けることになった。療養を終えて王都に帰ったドレイクとレイナは案の定、叱られた。二人は反省し、両家が所有する別荘地にて一緒に蟄居謹慎処分を受けた


「レイナ、僕は生涯にかけて罪滅ぼしをするよ。」


「うん。」


一方、ドットはドレイクとレイナの下から離れ、一人前の薬師になることを誓い、旅に出るのであった


「サコンさん、ヨイチさん、僕、頑張ります。」


三人の若者がそれぞれの道へ行くのを遠くで見守る左近と与一であった

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