第7話:離脱

島左近清興、現在はドレイクの昔語りを勝手に聞かされているところだ。こやつは自分の不幸に酔ってるのかと言うくらい話が出てくる。公家(貴族)の子息だからか、それかこやつの性根自体かは分からぬが、いい加減終わってほしい。ただでさえ遅れれば遅れるほど日が暮れてしまう。するとドレイクは動き出し、近くにあった小刀(ナイフ)を取り出し、自分の首筋に当てた


「何をしておる!」


「ふん、決まってるだろ、ここで自害する。」


「な、何を考えているのですか、ドレイク様!」


ワシとドットはドレイクが自害しないように宥めるが奴は首筋に小刀を突きつけたまま、話を続けた


「僕は騎士失格だ。大切な人を守れなかった。僕にできる事は死んで詫びるしかない。」


「や、辞めて・・・・」






「戯け者があああああああああああああ!!」






「ひいい。」


島左近の雷鳴の如き一喝にドレイクは怯み、体がふらつきながら尻餅をつき、手からナイフを落とした。近くにいたドットも島左近の迫力に押され、金縛りに遭ったかのように身動き一つ取れなかった


「女々しき奴め!先程から聞いておれば、お主のやっていることは己の運命(さだめ)から逃げておるだけでないか!お主が仮に自害したとして、あの娘はどうなる。一生消えぬ傷を抱いたまま生きていかねばならぬのだぞ!」


それを聞いたドレイクは思わず涙を流した。自尊心の高いドレイクにとっては人前で涙を流す事は恥なのだが、この時ばかりは堪えきれずにいた


「いいか!お主のすることは自害ではない。あの娘に寄り添い、生涯に渡って罪滅ぼしをすることだ!自分の運命(さだめ)から逃げるな!娘と共に戦うのだ!」


「う、うわああああああああ!」


ドレイクは人目を憚らず号泣した。もはや我慢の限界だった。左近の言っている事は至極尤も(しごくもっとも)な意見だったため、反論できなかった。自分はあまりにも未熟過ぎたのだと痛感させられたのである


「ぼ、僕は・・・・」


「ドレイク、そなたはまだ若い。此度のつらき経験を教訓とせよ。」


ドレイクは返事はしなかったものの首を縦に振った。あれほどワシに指図されるのを嫌がる小僧が首を縦に降らざる得ないほど追い詰められていたのだ。すると洞窟の方から笛の音が聞こえた


「まさか!」


「サコンさん、どうしたんですか!」


ワシは洞窟の中に入ると、笛を吹き続ける与一がレイナの口に指を突っ込んでいた


「何があった!」


「ぷはっ、左近様、舌を噛みきろうとしていました!」


「何だと!」


ワシはレイナの方へ向くと、涙ぐみながら顔を背けた


「舌を噛ませるな与一、それとレイナ嬢、理由を聞かせてもらえないか?」


「何があったんだ。」


そこへドットに支えられながら来たドレイク、何があったのか聞くとレイナが舌を噛みきり、自害しようとしたことを話した


「レイナ・・・・」


レイナは堪えきれず涙を流し理由を話し始めた


「ドレイク、私は身も心も賊たちの手によって穢されてしまった。もう私はこれ以上、生きていたくないの。」


レイナは泣きながら賊にされたことを話した。大好きな人より先に賊によって純潔を奪われ、身体中に賊たちの体液を浴びせられ、賊の下卑た視線と笑い声の中、陵辱され続けた事を・・・・


「レイナ、すまなかった!全て僕の浅はかさが招いた結果だ。」


「もういいよ、私はもうドレイクに相応しくない女になってしまった。」


レイナは悲観的な台詞を吐き、もはやお先真っ暗の心中に陥っている所にドレイクはドットから離れ、一歩一歩近づき、レイナを抱き締めた


「レイナ、僕は生涯を賭けて君を大切にする!もう二度と同じ過ちを犯さないようにする!だから一緒に生きてくれ!」


するとレイナはドレイクの方へ向いた


「私は穢れた身よ。それでも私の事を見ていてくれるの?」


「あぁ、僕は必ず君を幸せにする!この命に代えても!」


「う、うわああああああ!」


するとレイナも人目を憚らず号泣し続けた。それにつられドレイクも泣いた


「与一、ドット、後は二人だけにしよう。」


「御意。」


「はい。」


ワシらは洞窟を出て、二人きりにさせた。そらから時が過ぎ、二人は出てきた


「皆に迷惑をかけて誠に申し訳ない。」


「ごめんなさい。」


二人はワシらに向かって謝罪し頭を下げた。今まで他人に弱味を見せなかった二人が・・・・


「ドレイク様、レイナ様、あ、頭を上げてください!」


「いや、本来であれば任務のため王都へ行くはずなのに僕たちが足手まといになってしまった。」


「私たちは誠の未熟者だ!」


二人の従者であるドットは頭を上げるよう説得を続けた。それでもドレイクとレイナは頭を上げず、自分たちが足を引っ張り、任務に支障を来したことを詫び続けた


「とりあえず町へ戻る。町の病院へ行き、そこで安静にしてもらうぞ。任務はワシと与一が行くから、それで良いな?」


「「・・・・心得た。」」


その後、ワシらは来た道を引き返し、補給物資を調達した町【トオノ】へ到着した。そこで町の病院へ行き、二人を預けることにした。ドットは二人のお守り役として残しておいた。ワシと与一は献上品を貸倉庫に預ける、町で宿を一泊してから行こうとしたら・・・・


「ちょっと待ってくれ。」


「何だ?」


「手紙を書く。王都に着いたら渡してほしい。」


「分かった。」


ドレイクとレイナは手紙を3通ほど書いた。1通目は此度の任務で辞退する旨の詫び、残りの2通は二人の実家への手紙を我等に渡した。手紙は色違いでどれを出せばよいか分かるようにしている


「必ず届ける、お主らも大人しているのだぞ。」


「では後の事を頼む。」


「ドット、二人の事を頼んだぞ。」


「はい!御二方もお気を付けて!」


ワシと与一は病院を後にした。宿までの道中、補給物資を調達し、宿で一泊した


「左近様、予定よりもかなり遅れておりますな。」


「あぁ、怪我人も出てしまったからな。」


「王都の者たちからすれば赤っ恥を晒したものではござらぬか?あの二人、此度な任務を志願したのですから。」


「少なくともあの二人を見る目は厳しくなるだろうな。大事な献上品の護衛の任務を降りざる羽目になってしまったからな。まぁ、それもまた1つの試練であろう。」


「あの二人はこれからもやっていけるでしょうか。」


「さあな、こればかりは天のみぞ知るとしか言えんわ。」


ワシと与一は宿で一泊した後、貸倉庫から献上品を受け取り、任務を続行した。辺りを警戒しながら途中で躓いた山道を越え、王都へ向かった






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