第6話:昔語り
島左近一行は現在、危険な状況下にいる。まずドレイクは毒矢による瀕死の重傷を負ったが、一命を取りとめ、現在は安静にしている。次にレイナだが、何とか救出できたが既に賊どもによって純潔を散らされ、慰み物にされており、心身ともに衰弱していた
「左近様、この二人を連れての任務は不可能です。」
「そうだな、よし一旦、町へ引き返す。補給に立ち寄った町で二人を置いていく。」
「でもドレイク様とレイナ様は納得するでしょうか。」
心配するドットをよそに与一は二人への不満がタラタラだった
「今の二人は完全に足手まといだ。勝手な行動するからあのような目に・・・・」
「与一、止さんか」
「・・・申し訳ございません。」
「町へ戻るのは明朝だ。この洞窟で野宿する他ない。」
山道には賊だけでなく獣もいる。二人の重傷者を抱えている以上、間違いなく格好のエサだ。ワシらはこの洞窟で野宿をすることにした。火を焚き、辺りを警戒しつつ、食料と水を飲食していた
「左近様、明朝までお休みくだされ、夜の番は某が致します。」
「気持ちは有り難いが、この状況下だ。それにそなたも働き詰めであろう、お主も休め。」
「ですが左近様は大事な御身、不眠は御判断を狂わせます。」
「だが。」
「あの交代で寝ませんか?時間が経ってから起こしていって見張りをするんです。」
「如何致しますか?」
「分かった、ドットの提案を受けよう。受けるからにはそなたにも見張りをしてもらうぞ。」
「はい、本当は怖いですけど、頑張ります。」
「そうか。」
ワシらはドットの提案を受け入れ、交代で眠り続けながら、見張りをしていった。それが効を奏したのか、その夜は賊や獣に襲われることなく、休むことができ、無事に朝を迎えた
「左近様、朝にございます。」
「あぁ。」
「ようやく朝が来ました。」
「ドット、お主も御苦労だったな。さぞ気を揉んだであろう。」
「は、はい。早く朝が来るよう祈っていました。」
「お主は強い。だからこそワシも与一も休むことができた、礼を言うぞ。」
「ありがとうございます。」
「よし朝餉(あさげ)を取ったのちに町へ引き返すぞ。」
「「ははっ(はい)」」
ワシらは朝餉の用意をしていると、ドレイクがようやく目を覚ました
「こ、ここは。」
「ドレイク様、目覚められましたか!」
「ドット・・・・」
「お主は生死の境に彷徨っておったのだ。命が助かっただけでも幸いだ。」
ドレイクは朧気ながらも、徐々に思い出していき・・・・
「そうだ、レイナは!いっ・・・・」
ドレイクは起き上がろうとしたが、矢傷で苦悶の表情を浮かべた
「動くな。矢傷を受けた所は治療はしたが、無理をすれば、また傷口が開くぞ。」
「でもレイナが・・・・」
「安心せよ、あの娘は救出した。」
それを聞いたドレイクは安心し、立ち上がろうとした
「おい、無理に立ち上がるな。」
「いや、僕はレイナに詫びねばならぬ。」
「今すぐは無理だ。娘の方も安静にしなくてはいけないんだ。」
「だったら、せめて、せめて顔だけでも見せてくれ!」
「少しだけだ。」
ワシはドレイクを担ぎ、レイナの下へ向かった。レイナは眠っていた
「どうだ、これで安心したであろう。」
「せめて近くまで・・・・」
「ダメだ。娘の方も安静にしておかねばならぬ、残念ながらここまでだ。」
ドレイクは観念したのか、ワシの言うことを聞き、与一たちの下へ戻った。一緒に朝餉を取るついでに町へ戻ることを伝えた
「お主はまだ病み上がりの状態だ。あの娘も命に別状はないが、共に行動するのは不可能だ。一旦、そなたと娘を町へ置いていき、ワシと与一は王都へ行く。心配するな、任務は必ず果たす。ドット、お主は二人のそばにいてやれ。」
「はい!」
「・・・・僕が眠っている間、レイナはどのような様子だったんだ。」
「お主と違って致命傷を負うほどの負傷はしていない。」
「今は自分の体を直すことだけを考えろ。」
ドレイクはしきりとレイナについて聞いてきた。気持ちは分かるが空気を読めと言いたい。ワシと与一ははぐらかしながら、返答を渋った
「ドット、レイナの身に何があったのか教えてくれ!」
ワシらから返答がないのを諦め、ドットに矛先を向けた。ドットはと言うと、戸惑った表情でワシらに助けを求めた。
「ドットが困っておるだろう、その辺にしておけ。」
「知りたいんだ!レイナは賊に連れ去られた後、どうなったのか!」
「いい加減にしろ!」
そうこう言い争っていると・・・・
「キャアアアア!!」
レイナが悲鳴を上げた。悲鳴を聞いたドレイクはレイナの下へ向かおうとしたが体力が回復しておらず、矢傷もあって、うまく動けずにいた。ワシと与一は先に娘の下へ向かうと・・・・
「く、来るな!!」
レイナは怯えた表情で我等を拒絶するように後退りした
「落ち着け、もう賊はおらん。ここは安全な場所だ。」
「ドレイク殿もドットも皆、無事だ!」
ワシと与一は怯えるレイナを何とか宥めていた。そこへドットとドットに支えられて歩くドレイク、悲鳴を聞きレイナの下へやって来たのだ
「レイナ、僕だ。ドレイクだ!」
「来ないで!」
「どうしてだ!」
「うう、私は、私は・・・・」
レイナは涙ぐみ、震えていた。ワシらはこれ以上、悪化することを避けるべく、退出することにした
「(与一、娘を見張っていろ。早まったことをしないようにな。)」
「(御意。)」
ワシはドレイクにレイナが賊に囚われていた時の事を話すことにした。一旦、ワシはドレイクを連れて洞窟の外へ出た。ドットはワシらの後を着いてきた
「レイナの身に何があったんだ!」
「落ち着け、これから話すことは嘘偽りのないありのままの事実だ。」
ワシはドレイクに囚われの身となったレイナが賊によって純潔を散らされ、慰み物にされたことを話した
「う、嘘だ。」
「嘘ならどれほど良かったかのう。」
「ドット、本当なのか?」
「サコンさんの言う通りです。」
「そ、そんな。」
ドレイクは膝から崩れ落ちそうなところ、ドットが支えた。できれば言いたくなかったが、いずれは知ることになる
「僕のせいだ。僕のせいで・・・・」
「過ぎた事を悔やんでも仕方があるまい。いつまでも自分を責めるな。」
「・・・・僕とレイナは幼馴染だった。」
突然、ドレイクが昔語りをし始めた。ドレイクとレイナは同じ伯爵家の幼馴染で許嫁の間柄だった。幼少のころから共に騎士になるべく切磋琢磨しあった。だが月日が経つにつれてお互いを思うようになるが、互いに言い出せずに現在にいたる。だが運命は残酷である。ドレイクにとって大事な人が賊の慰み物にされ、自分は何もできずに瀕死の重傷を負い、生死の境を彷徨う始末である
「(これは予想以上に重い話になってしまったな・・・・)」
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