入寮します! 7
side:如月奏
今日はここ、桜華学園に外部生が入寮する日。
つまり寮監である俺が忙しくなる日。
朝がすこぶる弱い俺は、この日が一番嫌いだが、「いつも穏やかで優しい寮監の如月さん」のイメージを今更壊すわけにはいかないので、冷水で顔を洗い目を覚まし準備をする。
俺はもともと桜華学園高等部の特待生枠で卒業した、ただの一般庶民だ。
それなのになぜこんな坊ちゃんエリート校の寮監をしているかというと、在学中の3年間、風紀委員をしながら首席を取り続けていたら、理事長から寮監にならないかと誘いを受けたからだ。
就職先や部屋を探す手間も無くなるうえ、住み込みだと思えないほどの給料。考えさせられたのは、このまま山奥に隔離される事くらいだ。
しかし、もともと愛だの恋だのに興味が無く、桜華学園で過ごした3年間で自分が同性でも問題なく突っ込める事が判明し、当時から分厚い猫かぶりによる人当たりの良さと自覚のある顔面のよさで、合意の上での入れ食い状態だった為、これからも特に問題はないか、と二つ返事で受け入れた。
『ふぅー⋯⋯っし、行くか。』
自室を出て寮から少し遠い集合場所の門へと足早に向かう。
2・3年生は今日から登校で、始業式があるので既に校舎に移動しており、今寮に残っているのは1年生のみだ。
今日外部生が入寮することは通達済みなので、気になるのだろう。部屋から出てうろうろしている輩が多い。
今年の外部生は、同学年の内部生と同室になる。
色々と特殊な環境の中に放り込まれるので、慣れない外部生を同室の内部生がしっかりサポートするように、という理事長からのお達しだ。
去年まではそんな通達なんて無かったので、今年編入すると聞いた理事長の甥っ子の為だろうか。
あの無表情がデフォルトな理事長が、甥っ子を可愛がる様子が全く想像つかないが、そんなに可愛い子なのだろうか?なんとなく柴犬のような子を想像してしまう。
そんなことを思いながら歩いていると、門外に生徒が既に集まっていた。
(今年の外部生は時間が守れるやつらみたいで何よりだ。)
うんうん、と満足しながらも、いつもの様に猫をかぶって生徒たちに声をかける。
点呼を取っていると、どえらい美人が目の前に現れ、小さめな声で水瀬遥です。宜しくお願いします。とペコリと軽くお辞儀をされた。
はい、よろしくお願いしますね、と返すとそのまま遥の前に並んでいた柳と一緒に少し離れた場所に行ってしまった。
あの美人が甥っ子くんか、全然柴犬じゃなかったなとぼんやり思いながらも全員の点呼を終え、生徒を寮へと案内する。
周囲の生徒からの質問に無難に受け答えしていると、斜め後ろから視線を感じたので何か用かなと目線を向けると、理事長顔負けの無表情がこちらを見つめていた。
その表情を見た瞬間、理事長と遥が無表情で向かい合って話している姿を想像してしまい、シュールだ、と思わずふはっと吹き出してしまった。
こんな風に吹き出して笑ってしまったのなんていつぶりだろうか。
周りの生徒に不思議そうに見られたので、なんでもないよ、と伝え再度遥の方を見ると何故か周りをキョロキョロしていた。
いや、可愛いな。と思わず撫でまわしたくなる気持ちになりつつ、歩みを進めながらそのまま横目で見ていると、首を傾げつつもまたこちらに目線をよこしたので、悪戯心が沸き上がりパチンッとウィンクをしてみた。
遥はどんな反応をするんだろう。
如月のウィンクを見た瞬間、遥はもともと大きな瞳をさらに大きく見開いて驚いていた。その後なぜかキラキラとした瞳で見つめられたと思ったら今度はまた少し困り顔で首を傾げる。
なんだか野良猫を観察しているような気分になり、見てて飽きないな、と思っていると、うんうん、と何かに納得したかのように頷き、スッと目をそらされてしまった。
マイペースな猫ちゃんだな、と思う。
(これから会うたびに餌付けでもしてみるか)
毎日ポケットにお菓子を忍ばせる為に案内が終わったら買い物に行こうと決めた。
さて、この猫ちゃんは何が好きなんだろうか。
色々買い込んでしまいそうだ。
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