入寮します! 5

収まらない早い鼓動を感じながらも、携帯に目を落とす彼に声をかけると、ビクッと肩が震えた後そっとあの真っ直ぐな黒い瞳がこちらを向いた。


サラサラとした黒髪に艶やかな黒い大きな瞳。

表情の無い綺麗なその顔は精巧な人形を思い起こさせるのに、控えめに主張している泣き黒子が人形には無い色香を醸し出している。







とても、綺麗だ、と思った。










柄にもなく緊張しながら、いつものように自らの名前を言い手を差し出すと、彼はおずおずと名前を言いそっと握手をしてくれた。




水瀬、遥くん⋯と頭の中で繰り返しながら自分の手のなかにある華奢な手をギュッと握った。



自分の手が大きいと思った事は特に無かったが、水瀬の手を握り込むとスッポリと手の中に収まった。



女の子のように柔らかいわけでは無い、無駄な肉がついていない薄い手のひら。


手は小さいはずなのにスラっと伸びた細い指。




(あぁ⋯⋯離したくないな)






そう思ってしまった自分に驚く。



今までそんな事を思った事なんて無かったのに。




何故そんな事を⋯と考え始めた辺りで、眉をハの字にしてこちらを伺い声を掛ける水瀬君に気付き、握手にしては長すぎたと焦り、離したくないと思う心を抑えすぐに離し謝った。


水瀬は不思議そうにしながらも気にして無さそうに話を続けたのでよかった、とホッとしつつ、嫌われたくない、なんて思っている自分にまた戸惑う。



水瀬家の事を聞いたのは、何かを話さなければ会話が終わってしまう、と思わず口から出てしまっただけだったが、結果会話が繋がったのでどうにか仲良く慣れないかと探りながら話していた。




水瀬は海外の話に興味津々といった様子で、また話す機会になるかもという下心もあり、もしよかったらと提案をしたその時




今までずっと少し困り眉で話していた水瀬が、



突然ふわっと笑った






その花が綻ぶような甘い笑みに時間が止まったかのように錯覚する。







顔に熱が集まっていく初めての体験に動揺してうまく言葉が出せない。




なんとか言葉を捻り出し、会話を続けようと試みるも、水瀬はあの甘い笑みのまま見つめてくる。


不審に思われやしないかと、顔の熱を覚まそうと試みるも全く冷めず、むしろ水瀬の笑顔を見ているとそのまま自分の腕の中に閉じ込めてしまいたいという衝動が沸いてくるのに耐えるので精一杯だ。



いや、アメリカではハグくらい皆していたし⋯もうしてもいいのでは?と血迷い始めた時、門の方から声が聞こえた。



「お待たせいたしました。全員揃っているか確認するので1人ずつお名前をお聞かせください。」




その声に反応して振り返った水瀬からはもうあの甘い笑みは消えていた。




あの笑みが消えてしまった事に少し寂しさを感じてしまったが、お陰で顔の熱は収まり頭も冷静さが戻ってきた。




『受付が始まったみたいだね。良かったら一緒に行こう。』




そう誘うと水瀬はうん、とコクリと頷いたので一緒に門前の方に向かい受付をする。




今後俺と水瀬は同じ学園に通うのだ。

仲良くなるための時間は沢山ある。



同じ部屋にならないだろうか、同じクラスにならないだろうか、とそんな事ばかりを考えながら桜華学園の敷地を跨いだのだった。

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