入寮します! 2

『あ⋯はい、そうですけど。』



これはなんて返すのが正解なの⋯。名前?名前を言ったらいいの?!




「そうなんだ!よかった。俺は柳 颯汰やなぎ そうた。よろしく!」


右手を差し出してそう言い、眩しいくらいの笑顔で自己紹介をされてしまった。

これ、握手しようって事だよね⋯?コミュ力つよつよ君はこの人だったのか。

しかし柳ってうちと同格くらいの家柄じゃなかったっけ。なんで外部生なんだ?



そう自分のことを棚に上げながらも、自己紹介をしなければと向き合って



『僕は水瀬遥です。柳くん、よろしくお願いします。』



そっと手を握ると、ぎゅっと掴まれた。





(柳くん、手、おっきいなあ⋯うらやましい。)


そんなことを思いながら全然離してくれない手を見つめ、握手ってこんなに長時間するもの?と疑問に思い、柳くん?とそっと目線を手元から柳の顔に戻すと、ハッと気付いたように、ごめんっ!と慌てて手を離した。



「ごめんね、ちょっと一瞬考え事しちゃってたみたい。ところで水瀬って、あの水瀬家かな?パーティーとかであった事は無いと思ったんだけど⋯。」



と、気を取り直したように柳が言うので、変なの、と思いながらもまあいっか、と思い直す。



『ううん、大丈夫。そうだね、多分その水瀬家であってるよ。パーティーは家の方針で高校から出席する事になってるから、まだ一度も行ったことないよ。柳くんはもう社交界に出てるんだね。すごいね。』


「そうだったんだ。俺はただ父の後ろで笑って受け答えしてるだけだったから凄くないよ。でもこれからはパーティーとかでも会えるかもね。」


中学までは自由にさせてもらっていた自覚があるので、既に社交界に出ている柳に素直に尊敬していると、柳は照れたようにそう言って笑った。



そうだね、と頷きながら、


(柳くんってやっぱりコミュ力つよつよだ。なんだか話しやすい雰囲気。仲良くなれるかな⋯。)




そう思いつつ、疑問に思っていた事を聞くことにした。



『あの⋯単純に気になるだけだから、言いたくなかったら言わなくてもいいんだけど、柳くんはなんで高等部からなの?うちは家の方針で中学までは公立に通ってたからだけど、柳家はそんな方針聞いたことないし⋯。』



「あぁ、水瀬家の中学までは公立っていう方針は割と有名だもんね。俺はただ中学入学前までアメリカに居たから、日本生活のリハビリがてら中学は地元の私立に行ってたんだよね。3年で慣れて桜華学園に入学しろって父に言われてて。」



なんと柳くんは帰国子女だった。

そりゃコミュ力もつよつよになるよ⋯と勝手に思いながら、おにぃにまかせっきりじゃなくて、僕もちゃんと家の事勉強しよ、と心に決めた。

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