第50話 エピソードX:ビーチガール

 突き抜けるような青さの空に白い雲が浮かぶ。

 遠目にみれば、空と海の境の辺りに積乱雲が浮かんでいる。

 太陽は大地を焦がすほどに浜辺を照らし出す。

 浜辺の白い砂は粉のように粒が細かく、日光を受けて熱気を立ち昇らせる。

 そんな中、ビーチパラソルの下にビニールシートを敷かれていた。

 持ち主の少女は、さして豊かでもない胸元を必死に反らし、本人の考えるセクシーポーズをとる。

 しかし、彼女の姿はビーチを歩く男達の目を引くことはない。

 いくら真夏の海、太陽の熱に浮かされても見かけが中学生。それも胸が貧相な彼女に声をかけようという男はいない。

 とはいえ、少女の容姿が崩れているかというと、そうでもない。

 部活動の水泳で鍛えられた身体は健康的な日焼きをしていて、無駄のないしなやかな筋肉は少女特有の洗練された美しさがある。

 加えて、勝ち気な眼と小さな口は彼女の幼さを一つの魅力に昇華していた。

 少女愛好家ならば垂涎ものなのだろうが、残念ながら彼女がいるのはビーチだ。

 美少女よりは美女が。スレンダーよりは豊満な身体が映える場所に彼女はあまりに不適合だ。

 もっとも、それが分かるのであれば、ビーチでセクシーポーズをとりなどしない。

 少女は歯ぎしりをすると、青空にむけて叫んだ。


「なんでアタシの魅力がだーれもわからないのよぉおおおおおおお!」


 少女の悲痛な思いは大きな空と海に吸い込まれて消える。

 溜息をつくと、少女はシート端にどかしていた自身のスマホに手を伸ばす。

 そして、一人の連絡先へと目を付けた。


「はぁ、やっぱ夏休みって暇だなぁ。叔父さんのとこ、遊びにいこっかな?」


 少女の指はメッセージ画面を開き、文章を打つ。それは見知った叔父へと向けたものだ。

 やがて、少女は一文打ち終わると身体をシートの上へ投げ出し呟くのだった。


「久々に会いたいなぁ、叔父さんに。」


 小悪魔のような笑みで羽月雲雀は呟くのだった――

  

 ―――――完―――――


 ※もう一話投稿しますが、そちらは本編ではなく、今後の予定に関するものです。

 宜しければご覧ください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る