51.見えない所で起こっていた出来事(6)

 ◆◇◆◇


『ヴァレリオを殺したくてね』


 ゾッとする程淡白に、無感動に言い放った。


「ヴァレリオさんを!?」

『あいつだけは私の力の及ぶ範囲外の生物なのだ。正直あいつがどこで何をしているかもハッキリは見えない。シェイド共が攻撃を仕掛けるのは分かっていたからこのタイミングで消してやろうと思ってな』


 ヴァレリオは半分は神である。


 であるならばひょっとしてこのメルティを止められる唯一の存在なのかもと思えた。


『言っておくがあくまで邪魔だから取り除くだけだ。全能の私からすれば半能にも満たないあいつはエラー値の1つに過ぎない。妙な期待は抱くな』


 蒼太の胸の内を見透かしているかの様に、いや実際そうなのだろうが、釘を刺す様にそう言った。


『だが残念、奴はまだ生きている。折角怪物の行動ルールをシェイド共に教えてやったというのに』

「行動ルール?」

『この呼び鈴を渡す時、最初に言っただろう? 怪物は付近を全て破壊しながら召喚者の元へと向かう。命令を出せば怪物はお前の意のままに動くとな』


 頭をトンカチで殴られた様な衝撃を受けた。

 そんなルールなのであれば怪物は自分の存在が吸い寄せている様なものだった。


 言われてみれば確かに緑中ヶ丘の怪物達は皆、自分目掛けて移動していたのではなかったか。


『呼び出す度に強くなる怪物はあの時点で相当なものだった筈だが、ヴァレリオの奴、半分とはいえ、さすがは神だ』

「それで、今出て来たのは何の御用ですか?」


 もはや一刻も早くこの神との対話を終えたかった。

 さっさと起きてこの事をヴァレリオやアークヴィラに報せなければと思った。


『お前に怪物の事を認識しておいて欲しくてな。お前はきっと、もう怪物を召喚しない、という選択をするだろう?』


 メルティの言い様は妙だった。

 だが合っている。自分は怪物など絶対に召喚はしない。する筈がない。


 なら今、敢えて蒼太に教えた理由は何なのだ?


 そんな事をしなくても、今まで通り、自分が寝た後に召喚すれば良いのではないのか。


『今、ヴァンパイアの女王もヴァレリオも深手を負っている。だが今日しかシェイドを倒すチャンスは無い、となれば無理してでも行かざるを得まい』


 ゾッとした。

 この神は一体どれほど細かく自分達の状況を知っているというのか?


『シェイドの王はヴァレリオが全開で戦ってようやく互角だ。今の満身創痍の状態ではあの機械を加えた3人がかりでも到底勝ち目はあるまい』


 得意げになる訳でもなく、淡々と話す。

 不思議な事にその言葉には一切の嘘は混じっていないと直感でわかる。


『つまりだ、蒼太君。怪物も使い方によっては助けになるんじゃないのか?』

「それは、そうですね」


 メルティの言う通りだった。

 だが全く神の目的が見えなかった。


 まずは怪物を召喚し、シェイドの王ルーヴルドを倒す。それ以降は召喚しなければそれで問題ないのでは無いか。


『その通りだ。

「え!?」


 心の中を読まれるのが最も気持ちの悪い事だった。


『何故ならば次に召喚する怪物はである。それを召喚した翌日、お前の意志に関係なく、召喚はなされる。絶対に』

「え、え……そ、それってどういう……」

『そういうルール、なのだ』

「……」

『それを知って、さあお前はどうする? 召喚するか? しないか?』


 神の声色は殆ど変わらないが、蒼太の反応をただ面白がっている様にも、探っている様にも見えた。


『そうだ、もうひとつ言っておこう。怪物の呼び鈴ソネリア・モンストルアッサを使って召喚される最後の怪物には誰も勝てない。それはヴァレリオであっても同様、つまり』


 そこで一瞬言葉を止め、最後の息を吐く様に言った。


『それが召喚されれば、世界は終わる』


 プツッ―――



 まるでテレビの電源を消したかの様に静寂が訪れ、蒼太は失神する様に眠りについた。


 ―――



 ヴァレリオに起こされ目を覚ました蒼太だったが状況はほぼ把握していた。


「夢で……聞こえました。ハッキリと。弥生さんに向かって『今夜あたしとお前で奴らを1人残さず抹殺する』と言っていたのが」

「……そうか。なら、急ごう」

「はい。ですがその前に、少しだけお話があります。ヴァレリオさん」

「む……」


 その決意溢れる表情に何かを感じ取ったヴァレリオは「手短かにしろ」と言って腕を組んだ。


「夢でメルティと名乗る神様と会いました」

「何だとっ!」


 驚いて声が上ずった。ヴァレリオにしては珍しい事である。

 蒼太の口からそんな名前が出て来ようとは思いもしなかった。


「やはりご存知でしたか。メルティはヴァレリオさんを殺したいと言っていました」

「ふうむ。で?」

「ヴァレリオさん、ごめんなさい。この所毎日、世界中で暴れているあの怪物達を召喚していたのは、僕でした」

「な……いやそんな馬鹿な。それなら俺のが見抜いている筈」

「正確には僕の中の別人格と言いますか……」


 蒼太は最初にメルティと出会った所から話し出した。


 ヴァレリオは時に悲しそうな、時に目を瞑って、それをしっかりと聞いていた。


怪物の呼び鈴ソネリア・モンストルアッサか。聞いた事がないな」

「ヴァレリオさん。ルーヴルドは僕に任せて貰えませんか」

「な、何だと!?」


 目覚めてからの蒼太に驚かされてばかりだった。


「みんな満身創痍です。僕も役に立ちたい。パンチの打ち方だけ教えて下さい」

「いやそんなもの今更身につけた所で……」

「いいんです。不意打ちでもいい、1発でも殴れたら。僕はアキさんとヴァレリオさんを悲しませたあいつが許せない。その後、僕は最後の召喚をします。僕の意志で」

「……」


 ヴァレリオにしても残念ながら今は勝算は無かった。それ程万全な状態のルーヴルドは強いとわかっている。


「そのかわり、必ず明日が来るまでに僕を殺して下さい」


 蒼太の目には強い決意が宿る。

 自分が死ねばメルティの言う、誰も勝てないという『最後の怪物』が現れる事はない筈、と考えたのだ。


 ヴァレリオは少し考えたが、やがて、


「分かった。でも他の方法で行けそうなら、例えば4人がかりで行けそうならそうしよう。弥生が元気なら何とかなるかもしれん。俺がこの状態の今は、あいつが一番強い」


 蒼太にしても死にたい訳ではない。コクリと首を振る。


「よし、じゃあ行くか。急ぎつつ道すがらパンチの打ち方を教えてやる」


 そうして2人はアークヴィラが示した場所へと急いだ。

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