47.見えない所で起こっていた出来事(2)

 ◆◇◆◇


 蒼太はそれがもう1人の自分が召喚した、ガーゴイルを模した怪物だとも知らず、必死に逃げた。

 そこで奇妙な、そして運命的な出逢いをした。


 彼にとって今日の体験は恐怖でもあったが、刺激的でもあった。


 それはまるで小説や映画の世界であり、まさに非日常と言えるものだった。


「ヴァンパイア! そんなものがこの世に存在していたなんて!」


「アークヴィラ……アキさん。ヴァンパイアクイーン、僕が今まで見た事も無い様な、素敵な女性……」


「ヴァレリオさん。アキさんの執事。とっても恐ろしくて、アキさんに従順で、きっと途轍もなく、強い」


「そのヴァレリオさんにバイクに乗せて貰えるなんて、まあ実際、それは勘弁して欲しかったけど……刺激的だったのは間違いない」


「僕はあの凄い2人とちゃんと話せてたかな……変な事言ってなかったかな」


 ベッドの中で興奮気味の蒼太は何度も今日の出来事を思い出していた。


 当然、オフィスに乱入し、町で暴れ回った怪物の事も思い出す。


(何だったんだあれは……ほんとにガーゴイル?)


(ヴァンパイアがいるんだからガーゴイルもいて不思議じゃないのかな……?)


(でもアキさんはガーゴイルの事を『地球の生物じゃない』『見た事が無い』って言ってたな)


(そもそもなんであの怪物は僕を追いかけてきたんだ?)


(アキさんが居なければ今頃僕は……)


(そういえば昨日の夜、何かあった様な……)


 そんな事を朧げに考えながらも疲労からか、スッと眠りについた。



 しかしその数分後、パチリと目を開ける。


「あの神とやら。なかなか良い物をくれた」


 ニヤリと悪そうに笑うその人格は、本来の蒼太が抱え持ち、知らない間に山の様に蓄積していた不満と怒りの代弁者、もうひとりの蒼太だった。


(あのガーゴイルは俺が心で呼び鈴を鳴らすと同時に出て来た。つまりあれが俺が召喚した怪物って訳だ)


(怪物は召喚する度、強くなるという)


(その内、学生の時にを虐めていた奴らも全員処刑してやる)


(ならば……もっともっと強い奴でないと)


を助けてくれた奴以外は滅びてしまえばいい)


 だが今、再びこの町に怪物を召喚してもアークヴィラの邪魔になるだけと考えた。


(アークヴィラ。奴はどうやらの味方らしい。あいつの邪魔はしたくない)


(もっと遠い所で召喚……例えば、アメリカ……といえば自由の女神像、とかか? よくわからん)


 漠然とアメリカといっても広い。


 人格が違うと言えども知識レベルは同じ稲垣蒼太である。

 人生経験の乏しい彼がイメージできるアメリカの場所は僅か数箇所しかなかった。


 結果、無責任に場所を選ぶ。


 そしてまたチリン、と彼にしか聞こえない音が体のどこかで鳴った。


 さらにその次の日、今度は中国、北京の繁華街で、とまた無責任に場所を選んだ。

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